Amazon BedrockにおけるAIモデルカスタマイズの学習方法を解説します。
微調整(Fine-Tuning)と継続的予備訓練(Continued Pre-Training)の2手法を紹介し、特に「データの質」が成功の鍵となります。
高品質なデータ要件、推奨データ量、前処理のベストプラクティス、過学習リスクへの注意点など、実践的なノウハウを提供し、効率的なモデルカスタマイズを指南します。
1. Amazon Bedrockのモデルカスタマイズ手法
Amazon Bedrockでは、主に2つの手法でモデルをカスタマイズできます。
🔧 (1) 微調整(Fine-Tuning)
→ タスク固有のラベル付きデータでモデルを再訓練。出力形式やトーンの制御に適する。
🔧 (2) 継続的予備訓練(Continued Pre-Training)
→ ラベルなしデータでドメイン知識を追加。業界専門用語の学習に有効。
2. 高品質な学習データの要件
2.1. データの質:成否を分ける核心要素
- 微調整の場合
- 形式:
{"prompt": "質問", "completion": "回答"}
形式のJSONLファイルが必須。 - 品質基準:
- 一貫性: プロンプトと完了の対応が明確(例:質問に曖昧さがない)。
- 多様性: タスクを網羅(分類、要約、生成など)。
- 正確性: 事実誤認や矛盾がない(人間による検証またはLLM評価推奨)。
- 形式:
- 継続的予備訓練の場合
- 形式:
{"input": "テキスト"}
形式のJSONLファイル。 - 品質基準:
- ドメイン特化性: 金融レポート、医療文献など対象領域に特化したデータ。
- ノイズ低減: HTMLタグ、重複文、誤字脱字の除去が必須。
- 形式:
2.2. データ量の目安
手法 | 推奨データ量 | 補足 |
---|---|---|
微調整 | 50~10,000件 | 少量でも効果あり(例:100件で出力スタイルを変更可能)。 |
継続的予備訓練 | 10億トークン以上 | 少なくとも1,000万トークン(例:Wikipedia全記事の一部領域)。 |
✅ データ量より質を優先: 1,000件の高品質データ > 10,000件の低品質データ。
3. データ準備のベストプラクティス
3.1. 前処理の必須ステップ
- クリーニング:
- 重複排除、異常値削除(例:回答が空のレコード)。
- トークン長制御:
- 1レコードあたり最大4,096トークンに分割(Bedrockの制約)。
- トレーニング/検証分割:
- 微調整: トレーニング10,000件 + 検証1,000件(比率 9:1)。
3.2. 効果的なデータ構造の例
// 微調整用データ例(Q&Aタスク)
{"prompt": "Amazon Bedrockとは?", "completion": "AWSの生成AIサービスです..."}
// 継続的予備訓練用データ例
{"input": "Amazon Bedrockは、単一APIで複数基盤モデルを利用できる..."}
4. 成功事例から学ぶデータ設計
4.1. 微調整の効果例
- ユースケース: カスタマーサポートのトーン統一
- データ: 過去の対応ログ500件を「質問-理想回答」形式で変換。
- 結果: 出力のビジネス適応率が42%向上。
4.2. 継続的予備訓練の効果例
- ユースケース: 医療用語の理解強化
- データ: 医学論文10万ページ(約5億トークン)。
- 結果: 診療ガイドラインの解釈精度が35%向上。
5. 失敗回避のための注意点
- ⚠️ ハルシネーション対策:
- 事実と異なる出力を防ぐため、回答根拠をデータに明示(例:
<context>...</context>
タグ)。
- 事実と異なる出力を防ぐため、回答根拠をデータに明示(例:
- ⚠️ 過学習リスク:
- エポック数過多(例:>10)で汎化性能が低下 → 小データ時は
学習率乗数=0.1
に設定。
- エポック数過多(例:>10)で汎化性能が低下 → 小データ時は
- ⚠️ 言語依存問題:
- 日本語モデルでは事前訓練不足 → Wikipedia日本語版データの追加が有効。
6. モデル別データ要件の違い
基盤モデル | 微調整対応 | 継続的予備訓練 | データ量の感度 |
---|---|---|---|
Anthropic Claude | ○ | ✕ | 低(100件でも効果あり) |
Meta Llama 2 | ○ | ✕ | 中(500件以上推奨) |
Amazon Titan | ○ | ○ | 高(継続訓練は1億トークン以上) |
7. コスト最適化のポイント
- 💰 トークン量計算:
- 微調整料金 =
データトークン総数 × エポック数 × 単価
(例:Titanで$0.008/1,000トークン)。
- 微調整料金 =
- 💡 効率的な訓練手法:
- 初回は小データ(100件)+少エポック(1~3)で試行 → 効果検証後スケール。
8. 推奨データソース
用途 | パブリックデータセット例 | 特徴 |
---|---|---|
一般タスク微調整 | databricks-dolly-15k-ja | 日本語Q&A 15,000件 |
専門領域継続訓練 | Wikipedia日本語版ダンプ | 多分野テキスト(約4億トークン) |
画像関連 | COCO (Common Objects in Context) | キャプション付き画像25万枚 |
最適な学習データの条件
データ準備はプロジェクト工数の70%を占めますが、AWS Data WranglerとBedrockの統合により、前処理を数時間→数分に短縮可能です。
- 質の基準:
- タスクと直結する形式(例:微調整はQ&Aペア)。
- ドメイン知識の濃度(専門性の高いデータを優先)。
- 量の基準:
- 微調整:100件から開始、効果見て段階的拡張。
- 継続訓練:1億トークン以上で知識定着を確認。
- 継続的改善:
- 本番環境の出力をフィードバックループに活用。
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