[AWS]レスポンス速度に差が出る理由!BedrockRAGとAgentの決定的な違い

ツール

Amazon Bedrockでテーブルスキーマ情報を管理する際、Knowledge Base(RAG)Agent では、レスポンス速度と機能性に明確な違いがあります。

結論から言うと、レスポンス速度はKnowledge Base(RAG)の方がAgentよりも大幅に速いです。これは、両者のアーキテクチャと目的が根本的に異なるためです。

レスポンス速度の違いと、その理由

単一の応答(例:SQLクエリの生成)を返すまでの速さは、Knowledge Baseを直接利用するRAGが、Bedrock Agentよりも高速です。 これは、Agentが内部で「思考」という追加のLLM呼び出しステップを複数回実行する、アーキテクチャ上の動作原理に起因します。

1. Knowledge Base (RAG) の場合:【速い】

Knowledge Baseを直接利用するRAGは、シンプルで直線的なプロセスです。APIとしては RetrieveAndGenerate がこれに該当します。

処理フロー:

  1. 検索 (Retrieve): ユーザーの質問に基づき、関連性の高いテーブルスキーマ情報をベクトルストアから1回検索します。
  2. 生成 (Generate): 検索したスキーマ情報と元の質問をプロンプトに組み込み、LLM(基盤モデル)を1回呼び出して回答(例:SQLクエリ)を生成します。

このプロセスは、「検索→生成」という1往復の処理で完結するため、比較的低レイテンシで高速に応答を返すことができます。

2. Bedrock Agent の場合:【遅い】

Agentは、自律的にタスクを計画し、複数のツールを使いこなす「思考プロセス(ReActなど)」を持つため、内部で複雑なステップを踏みます。

処理フローの例:

  1. 思考 (Reasoning): ユーザーの質問を理解し、「どのツールをどの順番で使うべきか」という計画を立てます。(LLM呼び出し①)
  2. ツール使用 (Tool Use – Knowledge Base): 計画に基づき、まずKnowledge Baseを検索して関連スキーマを取得します。(LLM呼び出し②の前準備)
  3. 思考 (Reasoning): 取得したスキーマ情報を見て、次に実行すべきアクション(例: SQL生成)を判断します。(LLM呼び出し②)
  4. ツール使用 (Tool Use – Lambdaなど): (もしあれば)生成したSQLを実行するLambda関数を呼び出します。
  5. 思考 (Reasoning): ツールからの実行結果を見て、最終的な回答をどのようにまとめるかを考えます。(LLM呼び出し③)
  6. 最終回答生成: すべての情報を統合し、ユーザーへの自然言語での最終回答を生成します。(LLM呼び出し④)

このように、Agentは内部で複数回の「思考→ツール使用」のループを実行します。LLMを何度も呼び出すため、そのたびに推論時間が加算され、全体のレスポンスはKnowledge Baseの直接利用よりも著しく遅くなります。

アーキテクチャから見るレイテンシ(応答速度)の要因

レスポンス速度の違いは、それぞれの処理プロセスのステップ数にあります。

Knowledge Base (RAG) – シンプルな1往復モデル

Knowledge Baseを直接利用するRAG(例: RetrieveAndGenerate API)は、非常に直線的で効率的なプロセスです。

処理フロー:

ユーザー質問 →

  • ①検索 (Retrieve)
  • ②生成 (Generate)

→ ユーザーへの応答

  • レイテンシの内訳: (ベクトル検索のレイテンシ) + (1回のLLM推論レイテンシ)
  • 特徴: 処理のオーバーヘッドが極めて少ないです。質問を受けたら、関連情報を探し、それを基に1回だけ考えて回答を生成します。

Bedrock Agent – 複雑な反復(ループ)モデル

Agentは、自律的にタスクを解決するための「思考」と「行動」を繰り返す、より高度な仕組みです。

処理フロー(例:SQLを生成し実行する場合):

ユーザー質問 →

  • ①思考 (計画立案)
  • ②行動 (ツール選択: Knowledge Base)
  • ③検索 (Retrieve)
  • ④思考 (取得情報からSQL案を考察)
  • ⑤行動 (ツール選択: SQL実行Lambda)
  • ⑥実行 (Lambda呼び出し)
  • ⑦思考 (実行結果を解釈)
  • ⑧最終回答生成

→ ユーザーへの応答

  • レイテンシの内訳: (LLM思考レイテンシ + ツール実行レイテンシ) × 複数回
  • 特徴: Agentのコンソールで確認できる「トレース(Trace)」を見れば分かる通り、内部ではLLMによる「思考(Reasoning)」が何度も実行されます。この「思考」のたびにLLMの推論レイテンシが発生するため、全体の応答時間は必然的に長くなります。

なぜ「Agentの方が速い」と感じる(または言われる)のか?

観点①:タスク全体の完了時間 vs. 初回応答時間

これが最も重要なポイントです。

  • RAGの場合 (初回応答は速いが、タスクは未完了):
    • ユーザー: 「先月の東京支社の売上トップ製品は?」
    • RAG: (高速で)「SELECT ...というSQLです」とSQL文を返す
    • この後、開発者や別システムがそのSQLを実行し、結果を解釈する手間が残っています。
  • Agentの場合 (初回応答は遅いが、タスクは完了):
    • ユーザー: 「先月の東京支社の売上トップ製品は?」
    • Agent: (内部で思考と実行を繰り返し、時間はかかるが)「先月の東京支社の売上トップ製品は『製品A』です。」と最終的な答えを返す

つまり、Agentは「人間が介在する時間」を含めたタスク全体のリードタイムを劇的に短縮します。 この「エンドツーエンドでのタスク完了速度」を「レスポンスの速さ」と捉えれば、「Agentは速い(効率的だ)」という評価になります。

観点②:回答の質とインタラクション回数

  • RAG: 曖昧な質問には、的外れなSQLを生成してしまうことがあります。その場合、ユーザーは質問を修正して何度も試す必要があります。
  • Agent: 曖昧な質問に対して、「〇〇について、もう少し詳しく教えてください」と明確化のための質問を返すように設計できます。これにより、最終的に正しい答えにたどり着くまでのユーザーとの総インタラクション回数が減り、結果的に「早く解決した」と感じさせることができます。

メリット・デメリット比較

比較軸Knowledge Base (RAG)Bedrock Agent
レスポンス速度🚀 速い🐢 遅い
タスク完了速度
(エンドツーエンド)
遅い
SQL実行や結果解釈は別工程。
🚀 速い
生成・実行・要約までを自動化。
主な機能情報検索と回答生成<br>「〇〇に関する情報を教えて」という質問に答える専門家。タスクの計画と自律実行<br>「〇〇をして、結果を要約して」という指示をこなすアシスタント。
メリット高速・低レイテンシ:シンプルな処理フローで素早く応答。
実装が比較的容易RetrieveAndGenerate APIだけで完結できる。
低コスト:LLMの呼び出しが少ないため、コストを抑えられる。
・単一の応答生成が高速。
・実装が容易で低コスト。
高機能・柔軟性:SQL生成だけでなく、その実行や結果の要約、外部API連携など、複雑なタスクを自動化できる。
対話の文脈維持:セッションを通じて対話の文脈を管理しやすい。
複数ツールの連携:Knowledge BaseとLambda関数などを組み合わせて高度な処理が可能。
・タスク全体を自動化し、人の介在を不要にする。
・複数のツール(API)を連携させ、複雑な処理が可能。
・対話を通じてタスクを明確化できる。
デメリット機能が限定的:情報を検索して回答するだけで、アクション(SQL実行など)は起こせない
状態を保持しない:基本的にはステートレスなやり取り。
・曖昧な質問に対応しにくい。
複雑な実装:Action GroupやLambda関数、IAMロールなど、設定・開発項目が多い。
高コスト:内部でLLMを何度も呼び出すため、コストが高くなる傾向がある。
チューニングの難易度:思考プロセス(プロンプトテンプレート)の調整など、高度なチューニングが必要になる場合がある。
・単一応答のレイテンシが長い。
・実装が複雑で、コストが高くなる傾向。
・思考プロセスの制御が難しい場合がある。

使い分けの指針

多くの場合、まずはKnowledge Baseで高速なスキーマ検索とSQL生成の基盤を構築し、もしSQLの自動実行や外部連携といった「アクション」が必要になった際に、そのKnowledge Baseを一つのツールとして利用するAgentへと拡張していくのが効果的な開発アプローチです。


ユースケース推奨アプローチ理由
リアルタイム性重視(コンソール操作補助など)Bedrock Agentツール呼び出しによる即応性が有利。
アドホックなスキーマ調査RAG自然言語クエリへの適応力が高い。
大規模・頻繁なスキーマ変更RAGベクトルDBの更新だけで対応可能。
スキーマ+関連ドキュメントの統合管理RAG構造化/非構造化データの一元検索が可能。

💡 ハイブリッド戦略の有効性:
例えば、頻繁な参照が必要なコアテーブルは Agent で管理し、変更頻度の低い補助テーブルは RAG に委ねるといった併用も現実的です。複数Agentを連携させる「マルチエージェント」(例:スキーマ取得Agent + SQL生成Agent)では、速度と柔軟性の両立が可能です。

【Knowledge Base (RAG) を選ぶべきケース】

  • 単純なNL-to-SQL(自然言語からSQLへの変換)が目的の場合。
    • ユーザーの質問からSQLクエリを生成し、そのSQLをアプリケーション側で別途実行する構成。
  • チャットボットの応答速度が最優先される場合。
  • 開発工数とコストを抑え、迅速にプロトタイプを構築したい場合。

【Bedrock Agent を選ぶべきケース】

  • SQLを生成するだけでなく、そのSQLを自動でデータベースに実行し、結果を自然言語で要約して返してほしい場合。
  • 「東京支社の売上データを取得し、その結果をSlackに通知する」のように、複数のAPIやツールを連携させた複雑なワークフローを自動化したい場合。
  • ユーザーとの対話の中で、過去のやり取りを踏まえた上で次のアクションを判断するような、高度な対話型アプリケーションを構築したい場合。

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