[AWS]Bedrock Agentsのパフォーマンス・チューニング

AI

Agentの「パフォーマンス」とは、単なる応答速度(レイテンシー)だけではありません。「ユーザーの指示をどれだけ正確に、効率的に、そして賢く完遂できるか」という総合的な能力を指します。

このガイドでは、Agentのパフォーマンスを構成する「タスク成功率」「推論の質」「応答速度」といった複数の側面から、体系的なチューニング手法を解説します。

ステップ 0: 準備 – 評価とベースラインの確立

効果的なチューニングは、現状把握から始まります。

  1. 目的の明確化: まず、何を改善したいのかを具体的に定義します。「ユーザー満足度の向上」「タスクの成功率を95%にする」「平均応答時間を3秒未満にする」など。
  2. 評価データセットの作成: Agentの能力を測定するための、様々なパターンの質問や指示(テストケース)を複数用意します。成功・失敗を客観的に判断できるものが理想です。
  3. ベースラインの測定: チューニングを始める前に、現在の設定で評価データセットを実行し、結果(成功率、応答時間など)を記録します。これが改善の基準点(ベースライン)となります。

ステップ 1: プロンプトのチューニング – エージェントの思考を操る

最も重要で、最初に着手すべき最も効果的なステップです。 Agentの思考の根幹は、プロンプトによって制御されています。

Agent Builderの「高度なプロンプト」を編集し、思考の精度を高めます。

  1. 役割(ペルソナ)の明確化: プロンプトの冒頭で、Agentに明確な役割を与えます。「あなたは〇〇業界に詳しい、優秀なアシスタントです。」のようにペルソナを定義することで、応答のトーンや専門性が安定します。
  2. 制約と禁止事項の明記: やってはいけないことを具体的に指示します。「APIを不必要に呼び出してはいけません」「推測で答えてはいけません。情報がない場合は『分かりません』と答えてください。」といった制約は、コスト削減とハルシネーション抑制に繋がります。
  3. 思考プロセスの具体例(Few-shotプロンプティング): Agentがどのように思考し、ツールを使うべきかの「良い例」をプロンプトに含めます。これにより、Agentは複雑な指示に対して、より的確な行動計画を立てられるようになります。
  4. 出力形式の指示: 最終的な応答の形式を指定します。「回答は必ず箇条書きでまとめてください。」など。

ステップ 2: ツールの最適化 – 高品質な武器を与える

Agentの能力は、利用できるツール(Action Groups, Knowledge Bases)の質に大きく依存します。

Action Groups (API連携)

  1. APIスキーマ(OpenAPI仕様)のdescriptionを磨く:
    • 最も重要なチューニング項目です。 Agentは、このdescriptionを読んで「どのツールを、いつ使うべきか」を判断します。
    • 悪い例: "description": "ユーザー情報を取得"
    • 良い例: "description": "ユーザーIDを基に、ユーザーの名前、メールアドレス、登録日を含む完全なプロフィール情報を取得します。ユーザーに関する問い合わせがあった場合に最初に使用してください。"
    • パラメータのdescriptionも同様に具体的に記述します。
  2. Lambda関数の高速化:
    • Action GroupのバックエンドであるLambda関数の実行時間を短縮します。
    • メモリ割り当ての最適化: メモリを増やすとCPUも強化され、処理が高速化します。
    • プロビジョニングされた同時実行: コールドスタートによる遅延を防ぎたい場合に設定します。
    • エラーハンドリングの改善: Lambdaが失敗した際に、Agentが次の行動を判断できるような、有益なエラーメッセージを返すようにします。

Knowledge Bases (RAG)

  1. ドキュメントの質を向上させる: そもそも検索対象のドキュメントが分かりにくい場合、どんなに優れたRAGでも良い回答は生成できません。明確で、構造化されたドキュメントを準備します。
  2. チャンキング戦略の最適化: ドキュメントの内容や構造に合わせて、チャンクサイズやオーバーラップ率を調整します。これにより、検索精度(関連性の高い情報を取得できるか)が向上します。

ステップ 3: 基盤モデルの選択とファインチューニング – 脳を交換・強化する

Agentの思考と応答を司る「脳」にあたる基盤モデル(Foundation Model)を最適化します。

  1. 適切なモデルを選択する:
    • Anthropic Claude 3 Opus: 非常に高い推論能力を持ち、複雑なタスクやツール選択が得意。ただし、コストとレイテンシーは最も高い。
    • Anthropic Claude 3 Sonnet: 性能とコスト、速度のバランスに優れたモデル。多くのユースケースで第一候補となります。
    • Anthropic Claude 3 Haiku: 最も高速で低コスト。単純なタスクや、速度が最優先される場合に最適。
    • まずはSonnetから始め、性能が不足ならOpusに、速度が問題ならHaikuに切り替えるのが良いアプローチです。
  2. ファインチューニング(上級者向け):
    • プロンプトやツールのチューニングで性能が頭打ちになった場合の最終手段です。
    • 特定のツール選択の思考パターンや、業界特有の用語を含むパラメータ抽出の精度を向上させるために行います。
    • 高品質な学習データ(指示と理想的な思考・行動のペア)を大量に用意する必要があり、コストと手間がかかります。

ステップ 4: トレース機能の活用 – 失敗の原因を特定する

Agentがなぜ期待通りに動かないのかを理解するための、最も重要なデバッグ機能です。

  1. トレースの有効化: Agentの設定で「トレース」を有効にします。
  2. 思考プロセスの分析: Agentを実行すると、各ステップ(Orchestrationなど)の詳細なログが出力されます。特に、rationale(思考の根拠)という項目に注目します。
    • rationaleには、LLMが「ユーザーのこの発言を受けて、私はこう考えた。だから、このツールを使おうと思う」といった思考の過程が自然言語で記述されています。
    • 失敗したケースのrationaleを読むことで、「APIのdescriptionを誤解している」「プロンプトの指示を無視している」といった失敗の根本原因を特定できます。
  3. 原因の特定と対策: トレース分析で特定した原因に基づき、ステップ1〜3のチューニング(プロンプトの修正、ツール定義の見直しなど)に戻ります。

ステップ 5: 反復的な改善サイクル

パフォーマンス・チューニングは一度で終わるプロセスではありません。

「仮説 → チューニング実行 → 評価 → トレース分析」

このサイクルを継続的に回し、評価データセットでのスコアを改善していくことが、Agentを洗練させるための王道です。


Amazon Bedrockでモデルをカスタマイズするためのファインチューニングについて解説されており、Agentの「脳」を強化する上級者向けチューニングの具体的なイメージを掴むのに役立ちます。

Amazon Bedrockでのファインチューニングのプロセスを解説しており、エージェントの基盤モデルを特定のタスクに合わせて強化する際の参考になります。

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