バルサラの破産確率(Bathala’s Bankruptcy Probability)は、企業の財務リスクを評価するための統計モデルとして知られています。特に、企業の財務データから破産リスクを定量化する手法で、アルトマンのZスコアと並んで信用リスク分析で参照されます。
バルサラモデルは「ロジスティック回帰」で破産確率を算出しますが、最新のリスク分析では市場データを組み込んだハイブリッドモデル(例:KMVモデル)が主流です。実務では複数のモデルを併用し、定性評価と組み合わせることが推奨されます。
バルサラモデルの核心:数式と変数の意味
バルサラら(Bathala et al.)が提案した基本モデルは次の通りです:
破産確率の計算式
$
P(\text{破産}) = \frac{1}{1 + e^{-Z}}
$
ここで:
- $ Z = \beta_0 + \beta_1X_1 + \beta_2X_2 + \cdots + \beta_nX_n $
- $ e \approx 2.718 $(自然対数の底)
- $ \beta_i $:各変数の重み(係数)
- $ X_i $:財務指標(例:流動比率、負債比率など)
主要な財務変数の例
- 流動比率(Current Ratio)
$ X_1 = \frac{\text{流動資産}}{\text{流動負債}} $
→ 短期支払能力の指標 - 負債比率(Debt-to-Equity Ratio)
$ X_2 = \frac{\text{総負債}}{\text{自己資本}} $
→ 財務レバレッジの高さ - 営業利益率(Operating Margin)
$ X_3 = \frac{\text{営業利益}}{\text{売上高}} $
→ 収益性の安定性
モデルの特性
- ロジスティック回帰を基盤
- 出力値 ( P ) は 0~1の確率(例:$0.25 = 25%$ の破産リスク)
- $Z$ が大きいほど破産確率は低い $ Z \to +\infty $ で $ P \to 0 $
- 係数 $ \beta_i $ の決定
- 過去の破産企業データを用いた回帰分析で算出
- 業界ごとに係数が異なる(例:製造業 vs IT企業)
実用例:簡易シミュレーション
仮に次の係数・財務データの場合:
- $ \beta_0 = -2.5 $, $ \beta_1 = -1.2 $, $ \beta_2 = 0.8 $, $ \beta_3 = -2.0 $
- $ X_1 = 1.5 $, $ X_2 = 0.6 $, $ X_3 = 0.1 $
計算ステップ:
- $ Z = -2.5 + (-1.2 \times 1.5) + (0.8 \times 0.6) + (-2.0 \times 0.1) = -4.02 $
- $ P = \frac{1}{1 + e^{-(-4.02)}} = \frac{1}{1 + e^{4.02}} \approx \frac{1}{1 + 55.8} \approx 0.018 $
→ 破産確率 ≈ 1.8%(低リスク)
限界と注意点
- 静的モデルの弱点
- 財務データは「過去のスナップショット」であり、市場変化や経営戦略を反映しない。
- 業界依存性
- 小売業と金融業では変数の重みが異なる(汎用モデルは存在しない)。
- ブラックボックス化リスク
- 係数の経済的意味を解釈する必要がある(例:$ \beta_2 > 0 $ は「負債増=リスク増」とは限らない)。
他のモデルとの比較
モデル | 特徴 |
---|---|
アルトマンZスコア | 製造業向け・5変数・破産判定が明確(Z<1.8:破産ゾーン) |
Mertonモデル | 株価変動を利用(オプション理論ベース)・市場情報を反映 |
機械学習モデル | 非線形パターンを捕捉・高精度だが解釈性が低い |
応用領域
- 銀行融査:与信判断の補助ツール
- 投資家分析:株式・債券投資のリスクスクリーニング
- 企業内監査:子会社の財務健全性モニタリング
コメント