頭痛や肩・腰の痛みでロキソニンを日常的に使用している方も多いかもしれません。シップと併用している人もいるでしょう。しかし、痛みがなくなるとやめられない、毎日飲み続けている、という状態は結構危険な状態かもしれません。
意外と知られていませんが、ロキソニンのような痛み止めを毎日飲むと、ある内臓にダメージが蓄積し、気づいた時には危険な症状や副作用を引き起こすことがあります。
ロキソニンはどのように効くのか？
ロキソニンは「解熱鎮痛剤」というジャンルの薬です。痛みを抑える作用（鎮痛作用）と熱を下げる作用（解熱作用）があります。
痛みや発熱の根本的な原因は体の組織の炎症です。炎症が起きると「プロスタグランジン」という成分が発生します。
プロスタグランジンは神経を刺激して痛みを増幅させたり、脳に体温を上げるよう指示したりします。いわば体の「警報装置」のような働きをしています。
ロキソニンは、このプロスタグランジンが作られるのを妨げる酵素の働きを抑えることで、プロスタグランジンの生産をストップさせます。ロキソニンがストッパー役になることで、痛みや発熱が和らぐ仕組みです。
ロキソニンは「NSAIDs（非ステロイド性抗炎症薬）」というグループに属しています。市販薬のイブやセデス、バファリンなどもこの仲間です。
NSAIDsは痛みに頼もしい存在ですが、「薬はリスク」という格言があるように、裏の側面もあります。ロキソニンを含むNSAIDsのプロスタグランジンを抑える作用が、意外な副作用につながることがあるのです。
知っておくべきロキソニンの「意外な」副作用
腎臓への影響
ロキソニンが痛みの原因物質プロスタグランジンを抑えることが、他の重要な体の機能にも影響を与えることが副作用の仕組みです。
プロスタグランジンの重要な働きの一つに、腎臓の血管を広げて血の巡りを良くすることがあります。これにより腎臓は十分に血液を受け取り、健康なしっかりとした尿を作ることができます。しかし、ロキソニンを飲みすぎると、痛みは軽くなる代わりに、この腎臓の血管を広げる作用も抑えられてしまいます。
結果として、腎臓に血液を送る血管が狭まってしまい、これが原因で腎不全になることがあります。
長年ロキソニンをほぼ毎日飲んでいた方が、健康診断で腎機能を示すクレアチニン値がじわじわ上昇していたにも関わらず放置し、数年後に急な体のむくみやだるさ、食欲不振で受診したところ、末期腎不全と診断され、人工透析が必要になったケースも紹介されています。
腎臓の機能は一度低下すると元には戻りません。健康診断でのクレアチニン値の変化に早く気づくことが重要です。
用法・用量を守れば大きなリスクは減らせますが、血圧が高いなど他の原因で腎臓に既にダメージがある場合や、高齢者は副作用の影響を受けやすくなります。特に長期（5年、10年など）でロキソニンを飲む場合は、ボディーブローのように腎臓にダメージが蓄積することがあります。
両方・用量を守ること、毎年の健康診断で腎機能（クレアチニン）をチェックすることが当然として、長期的にロキソニンに依存しない痛みの付き合い方を考える必要があります。
胃への影響
プロスタグランジンには、胃の粘膜を守る働きもあります。
胃は食べ物を溶かすために強力な胃酸を出していますが、胃自体が溶けないのは、粘液のバリアで覆われ、粘膜の血流が良く、修復が助けられているからです。この粘液分泌や血流改善を助けているのもプロスタグランジンです。
ロキソニンを飲み続けると、プロスタグランジンがブロックされるため、胃の粘液が少なくなり、胃がダメージを受けやすくなります。
これにより、胸焼けや吐き気、腹痛といった症状が出ることがあります。胃が弱い人は特に注意が必要です。
そのため、クリニックではロキソニンと一緒にレバミピドやムコスタといった胃薬を処方することが多いのは、この仕組みが原因です。
もし胃の違和感や痛みを放置してロキソニンを飲み続けると、胃にダメージが加わり続け、胃潰瘍や胃に穴が開く胃穿孔といった状態になることがあります。これらは出血を伴い、緊急手術が必要になることもある怖い状態です。
ロキソニンを飲み続けていて胃の不調を感じる場合は、飲む頻度を減らすか、胃薬を併用することを推奨します。
喘息・血圧への影響
ロキソニンがきっかけで喘息が起きることもあります。これは知らない人も多いかもしれません。
プロスタグランジンの生産がストップされると、その代わりに「ロイコトリエン」という別の成分が作られることがあります。
このロイコトリエンは、私たちの気管支を狭めてしまう作用があるのです。
気管支が狭くなると、「ぜーぜー、ひゅーひゅー」といった呼吸音や、咳が止まらないといった喘息の症状が現れることがあります。
このロキソニンがきっかけの喘息は「アスピリン喘息」と呼ばれ、成人で発症する喘息の5%から10%を占めており、割合として少なくありません。
ロキソニンが原因だと気づかない人もいるため、風邪で飲むと咳が悪化する、頭痛で飲むと喘息が悪化するなど、無意識のうちに起きている可能性があります。心当たりのある人は、一度薬の変更を検討してみてください。
また、ロキソニンが腎臓の血管などを狭める結果として、血圧が上がってしまうこともあります。これもかなり意外な副作用です。
ロキソニンと一緒に血圧を下げる薬を飲んでいる場合、血圧の薬の効果を打ち消してしまうこともあります。ロキソニンを飲み始めてから血圧の薬の効きが悪くなったと感じたら、医師に相談しましょう。
飲み薬以外のロキソニン（湿布・塗り薬）はどうなのか？
ロキソニンには、飲み薬以外に湿布タイプ（ロキソニンテープ、モーラステープなど）や塗り薬タイプ（ロキソニンゲルなど）もあります。
これらの外用薬は、飲み薬に比べて副作用のリスクはかなり下がります。皮膚から吸収されて血中に入る量が少ないため、胃を通過して全身に作用する飲み薬よりも刺激は少ないと言えます。
しかし、100%安心というわけではありません。皮膚から吸収された成分は少ないながらも血液中に移行するため、貼る範囲が非常に広い人や、1日に何度も貼る人は注意が必要です。外用薬も用法・用量を守って使用しましょう。
湿布や塗り薬には、それならではの副作用もあります。代表的なのは、貼った場所の皮膚のかぶれ、赤み、かゆみといった「接触性皮膚炎」です。肌が弱い人に起きやすいです。
もう一つ注意が必要なのが「光線過敏症」です。湿布を貼っていた部分や剥がした後の皮膚に日光が当たると、ひどい日焼けのように赤み、腫れ、水ぶくれなどの強い皮膚反応が起きることがあります。特にケトプロフェンを含むモーラステープで起きやすいですが、ロキソニン成分の湿布でも起こりえます。日光を浴びて皮膚が荒れる心当たりがある場合は注意が必要です。
ロキソニンとの正しい付き合い方と他の選択肢
重要なのは、ロキソニンは「使ってはいけない薬」ではなく、痛み止めとして非常に優秀な薬であるということです。痛みに悩む人は、まず使ってみる価値のある薬です。
ただし、副作用のリスクを知った上で、正しい付き合い方を知り、用法・用量を守って使うことが大切です。
もし副作用が出たり、ロキソニンだけでは痛みがコントロールできない場合は、他の選択肢も知っておきましょう。
他の飲み薬の選択肢
- カロナール（アセトアミノフェン）：ロキソニンとよく比較され、副作用が出にくい薬です。1日最大4000mgまで使用でき、用量調整がしやすい特徴があります。ロキソニンと併用することも可能です。
- オピオイド系：少し強い薬としてトラムセットなどがあります。
- 神経障害性疼痛薬：ピリピリした痛みにはリリカ（プレガバリン）などがあります。
- 漢方薬も選択肢になります。
- 痛みの強さや性質によって様々な選択肢があります。ロキソニンが効かない、副作用で続けられない場合は、医師に相談して他の薬を検討してみましょう。
飲み薬以外の痛みを止める方法：
- 運動療法：筋肉の歪みを解消するなど。
- ブロック注射：ペインクリニックで行われる神経をブロックする注射。
- 針治療、マッサージなど。
- ニューロモデュレーション療法：電気や磁気で神経を刺激する医療機器。
注意が必要な人：妊娠後半の女性や15歳未満の子どもには使用できません。腎臓や胃に持病がある人、高齢の人も慎重に使いましょう。
正しい知識を持ち、安全にロキソニンを使っていくことが大切です。
安全にロキソニンを使うために
ロキソニンは、プロスタグランジンを抑えることで痛みを和らげる効果の高い薬です。
しかし、長期使用や用法・用量を守らない使用は、腎臓の血管を狭めて腎不全になったり、胃粘膜にダメージを与えて胃潰瘍になったりするリスクがあります。
また、アスピリン喘息を引き起こしたり、血圧を上げやすくしたりする可能性もあります。
湿布や塗り薬は飲み薬より全身への影響は少ないですが、リスクがゼロではないため、広範囲に使用する場合や頻繁に使用する場合は注意が必要です。皮膚のかぶれや光線過敏症といった局所的な副作用もあります。
基本的には、用法・用量を守って使用すれば大きなリスクは回避できます。
ただし、腎臓や胃に持病がある方、高齢の方は慎重に使いましょう。胃薬の併用や、カロナールなど他の痛み止め、あるいは運動療法やブロック注射といった薬以外の方法も選択肢としてあります。
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