一日一食療法(OMAD)

健康

近年注目を集めている「一日一食(One Meal A Day: OMAD)」という食事法について、現時点で得られている科学的知見に基づき、その潜在的なメリット、デメリット、健康への影響、実践上の注意点、そして内臓への影響を多角的に評価することを目的とします。OMADは、そのシンプルさや一部で報告される効果から関心を持つ人々がいる一方で、極端な食事制限であるため、健康へのリスクも指摘されています。

  1. 第1章: 一日一食(OMAD)療法の概要
    1. 1.1. OMADの定義と基本的枠組み
    2. 1.2. OMADと他の断続的断食法との関連性
  2. 第2章: 一日一食の潜在的メリット
    1. 2.1. 体重管理と体組成への影響
    2. 2.2. 代謝健康への効果
    3. 2.3. 細胞修復メカニズム(オートファジー)と抗炎症作用
    4. 2.4. 消化器系の休息と機能改善
    5. 2.5. 認知機能やその他の生理学的効果
  3. 第3章: 一日一食の潜在的デメリットと健康上の危険性
    1. 3.1. 栄養摂取の課題と栄養失調リスク
    2. 3.2. 身体的副作用
    3. 3.3. 代謝率とホルモンバランスへの影響
    4. 3.4. 精神的・心理的影響
    5. 3.5. 特定の集団における禁忌と注意点
    6. 3.6. 心血管系への長期的な影響に関する研究
  4. 章4: 一日一食の実践:食事のタイミングと内容
    1. 4.1. 食事摂取のタイミングとサーカディアンリズム
    2. 4.2. 一食で確保すべき栄養バランスと食事構成のポイント
  5. 章5: 一日一食の内臓への影響
    1. 5.1. 消化管(胃、腸)への負荷と適応
    2. 5.2. 肝臓および膵臓機能への影響
    3. 5.3. 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の変化とその意義
  6. 章6: 科学的エビデンスの現状と今後の研究課題
    1. 6.1. 主要な研究結果の概観と限界
    2. 6.2. 長期的な安全性と有効性に関するエビデンスの必要性
  7. 章7: 結論と専門的観点からの推奨事項
    1. 7.1. 一日一食の実施に関する総合的評価
    2. 7.2. 実践を考慮する際の注意点と医療専門家との相談の重要性

第1章: 一日一食(OMAD)療法の概要

1.1. OMADの定義と基本的枠組み

OMADは、24時間周期の中で食事の機会を1回に限定し、残りの約23時間を絶食状態とする食事パターンです。この1回の食事で1日分の全てのカロリーと栄養素を摂取することが基本となります。多くの場合、この1回の食事は夕食に設定される傾向がありますが、食事の具体的なタイミング(朝、昼、夕)はOMADの定義において厳密に規定されているわけではありません。食事内容に関しては、一部では健康的な栄養価の高い食品の摂取が推奨されるものの、多くのOMADの実践法では特定の食品群を禁止したり、厳格なカロリー計算を必須としたりするものではないとされています。
OMADの定義における食事内容の「自由度の高さ」は、実践者にとって取り組みやすさを感じさせる要因となり得ます。しかし、この自由度が逆に、栄養バランスの偏りや不健康な食品選択を助長するリスクも内包していると考えられます。

1.2. OMADと他の断続的断食法との関連性

OMADは、広義の断続的断食(Intermittent Fasting: IF)の一つの形態として位置づけられます。IFには、食事を摂る時間帯を制限する時間制限食(Time-Restricted Feeding: TRF)、特定の日に完全に絶食する隔日断食、週に数日だけカロリー摂取を大幅に制限する5:2ダイエットなど、多様なアプローチが存在します。OMADは、この中でもTRFの特に極端な形態(例:23時間の絶食と1時間のみの摂食ウィンドウ、すなわち23:1絶食パターン)と見なすことができます。
OMADの約23時間という極めて長い絶食期間は、他のより緩やかな断食法(例:16時間絶食の16:8法)と比較して、身体への生理学的ストレスや代謝応答が質的・量的に異なる可能性があります。この特異性が、OMADに期待される効果と潜在的リスクの両面を際立たせている要因と考えられます。

第2章: 一日一食の潜在的メリット

2.1. 体重管理と体組成への影響

  • 体重減少: OMADを実践すると、1日の総摂取カロリーが自然と減少しやすいため、体重減少効果が期待されます。ある研究では、被験者が夕食のみを摂取するOMADを実践した結果、1日3食を摂取した対照群と比較して、有意な体重減少が観察されました。具体的には、11日間の介入で、OMAD群は平均1.4kgの体重減少を示したのに対し、3食群は0.5kgの減少でした。また、1日1食または2食を摂取する人々は、1日3食を摂取する人々と比較して、年間を通じてBMI(Body Mass Index)が低下する傾向が見られたとの報告もあります。
  • 脂肪燃焼と体脂肪減少: 長時間の絶食は、体内のグリコーゲン貯蔵を枯渇させ、身体がエネルギー源として脂肪を優先的に利用する状態(メタボリックスイッチング)へと移行させると考えられています。これにより、体脂肪、特に内臓脂肪の減少が促進される可能性があります。2022年に行われた健康な成人を対象とした研究では、カロリー摂取を夕方の2時間枠(午後5時から7時)に制限した場合、1日3食を摂取した場合よりも体脂肪と総体重の減少が有意に大きかったことが示されています。運動中の脂質酸化が増加するという報告もあり、これは身体がより効率的に脂肪をエネルギーとして利用していることを示唆します。
  • 筋肉量への影響: OMADの実践においては、筋肉量の減少が懸念される点です。長時間の絶食と潜在的な総タンパク質摂取量の不足が原因となり得ます。しかし、一部の研究では、適切な量のタンパク質を1回の食事で摂取し、適度な運動を組み合わせることで、筋肉量の維持が可能である可能性も示唆されています。前述の11日間の介入研究では、OMAD群と3食群の間で除脂肪体重(筋肉量を含む)の変化に有意な差は見られなかったと報告されています。これは、エネルギー摂取量が同等であれば、短期間のOMADでは必ずしも体タンパク質の異化が亢進しない可能性を示唆しています。

OMADによる体重減少効果は、主に総摂取カロリーの抑制によってもたらされると考えられます。しかし、従来のカロリー制限食と比較して、OMADが体重減少において明確に優れているというエビデンスは限定的です。体重減少の「質」、すなわち脂肪量と筋肉量の変化のバランスが極めて重要です。OMADによって脂肪量が効果的に減少するとしても、同時に筋肉量が大幅に減少する場合、基礎代謝率の低下を招き、長期的な体重維持を困難にし、リバウンドのリスクを高める可能性があります。この連鎖を考慮すると、OMADの体重管理効果は、単に体重計の数値を見るだけでは不十分であり、体組成の変化、特に筋肉量の維持が持続可能性の鍵を握ると言えます。OMADを体重管理の手段として選択する場合、食事内容における十分なタンパク質の確保と、筋肉量を維持するためのレジスタンストレーニングの併用が、単に食事回数を減らすこと以上に重要となるでしょう。この点を無視すると、短期的な体重減少の後にリバウンドを経験する可能性が高まります。

2.2. 代謝健康への効果

  • インスリン感受性の向上: OMADによる長時間の絶食は、食後の急激な血糖値上昇とそれに伴うインスリン分泌の頻度を減らし、結果としてインスリン感受性を改善する可能性があります。これは2型糖尿病の予防や管理に有益であると考えられます。一部の研究では、断続的断食の実践により、空腹時血糖値、空腹時インスリン値、およびレプチン(満腹ホルモン)値が低下し、インスリン抵抗性が改善したことが報告されています。
  • 血糖コントロール: 食事回数が減ることで、1日を通じた血糖値の大きな変動が抑制され、血糖コントロールが安定する可能性があります。しかしながら、この点に関しては相反する報告も存在します。一部の研究では、OMADによって空腹時血糖値が逆に上昇したり、インスリンの初期反応が遅延したりする可能性が示唆されています。これは、1回の食事で大量の糖質が摂取された場合に特に顕著になる可能性があります。特に糖尿病患者においては、OMADは低血糖のリスクを高める可能性があり、厳格な医学的管理下以外での実践は推奨されません。
  • 脂質プロファイルへの影響: 断続的断食がLDL(悪玉)コレステロール値の低下など、心血管疾患リスク因子の改善に寄与するとの報告があります。一方で、OMADの実践がLDLコレステロール値や血圧を上昇させたという研究結果も存在し、注意が必要です。
  • メタボリックフレキシビリティの向上: 長時間の絶食とそれに続く栄養摂取のサイクルは、身体がエネルギー源として糖質と脂質を効率的に切り替えて利用する能力、すなわちメタボリックフレキシビリティを高める可能性があります。

OMADがインスリン感受性や血糖コントロールに与える影響は一様ではなく、個人の体質、食事内容、食事のタイミング、既存の健康状態によって大きく左右される可能性があります。代謝健康に関するOMADの報告が一貫しない背景には、OMADという食事法自体の定義の曖昧さ(特に1回の食事内容とタイミング)と、研究対象者の多様性が影響していると考えられます。絶食によるインスリン分泌抑制と脂肪利用促進は理論的には感受性改善に繋がりますが、1回の食事での過度な糖質・脂質負荷は、特にインスリン抵抗性を有する個人において、逆に糖代謝を悪化させる可能性があります。このことから、OMADの「効果」は、単に食事回数を減らすこと自体よりも、その1回の「食事の質とタイミング」および「個人の代謝状態」に強く依存すると言えます。OMADを代謝改善目的で検討する場合、食事回数の変更だけでなく、その1回の食事の栄養構成と摂取タイミングを個々の状態に合わせて最適化することが不可欠であり、一律のプロトコルでは期待した効果が得られない、あるいは逆効果になるリスクがあることを理解する必要があります。

2.3. 細胞修復メカニズム(オートファジー)と抗炎症作用

  • オートファジーの活性化: オートファジーは、細胞が自身の構成要素を分解しリサイクルする自己浄化プロセスであり、細胞の健康維持や老化抑制に関与するとされています。16時間以上の絶食期間がオートファジーを誘導すると考えられており、OMADの約23時間という長い絶食時間は、このプロセスを効果的に活性化させる可能性があります。
  • 抗炎症作用: 断続的断食は、C反応性タンパク(CRP)をはじめとする炎症マーカーのレベルを低下させることが報告されており、全身性の慢性炎症を抑制する効果が期待されます。慢性炎症は多くの生活習慣病の基盤となるため、この効果は重要です。

オートファジーの活性化と抗炎症作用は、OMADがもたらす可能性のある細胞レベルでの重要な健康効果であり、様々な慢性疾患の予防や進行抑制に理論的には寄与し得ます。OMADによる長時間の絶食がオートファジーを強力に誘導する可能性は高いものの、ヒトにおいて最適な絶食時間や、誘導されたオートファジーが具体的にどの程度の健康上の利益(例:寿命延長、特定疾患の予防)に結びつくかについては、まだ十分な科学的コンセンサスが得られていません。動物実験レベルではオートファジーと長寿・健康の関連が強く示唆されていますが、ヒトでの直接的な実証、特にOMADという特定の食事法との関連でのエビデンスはまだ限定的です。また、極度の絶食が逆に身体的ストレスを高め、コルチゾールレベルの上昇などを介して炎症を促進する可能性も皆無ではありません。このため、オートファジー活性化はOMADの魅力的な理論的根拠の一つですが、その臨床的意義や安全な誘導条件についてはさらなる研究が必要であり、「絶食時間が長ければ長いほど良い」という単純な結論には至らない可能性があることを理解しておくべきです。

2.4. 消化器系の休息と機能改善

  • 1日に1回しか食事を摂らないため、消化器官が食物の消化・吸収活動から解放される時間が大幅に長くなります。この「消化器系の休息」が、胃腸機能の回復や、消化管粘膜の修復、慢性的な消化器系の炎症の軽減に繋がる可能性があるとされています。

頻繁な食事摂取による消化器系への持続的な負担を抱える現代人にとって、OMADは消化器官に定期的な休息を与えるという点で魅力的に映るかもしれません。「消化器系の休息」という概念は直感的に理解しやすいものの、その具体的な生理学的効果や長期的な影響については詳細な検討が必要です。一方で、OMADでは1回の食事量が必然的に多くなるため、その1回の食事における消化器系への負荷は通常よりも増大する可能性があります。この「集中的な負荷」が、特に消化能力が低い人にとっては、胃もたれ、消化不良、逆流性食道炎などの症状を引き起こすリスクとなり得ます。絶食による休息期間の恩恵と、大量摂取による負荷のどちらが優勢になるかは、個人の消化能力や食事内容・量に大きく依存します。「休息」が具体的にどのようなメカニズムで消化器機能改善に繋がるのか(例:腸管バリア機能の強化、腸内細菌叢への好影響など)、そしてその効果は1回の大量摂取による潜在的ダメージを相殺できるのかという根本的な問いが残ります。消化器系への影響はOMADの隠れた重要な評価軸であり、単に「休息できるから良い」とは言えません。実践者の消化器系の状態や食事管理能力によって、結果が大きく異なる可能性があることを認識する必要があります。

2.5. 認知機能やその他の生理学的効果

  1. 認知機能への影響: 一部の研究では、断続的断食が認知機能に良い影響を与える可能性が示唆されています。動物実験では作業記憶の向上、成人を対象とした研究では言語記憶の改善が報告されています。また、日中の絶食が覚醒度を高める神経伝達物質オレキシンAの放出を促すという報告もあります。
  2. 神経保護作用: 動物モデルを用いた研究では、断続的断食が神経変性の進行を遅らせ、寿命を延長する可能性が示されています。
  3. 身体パフォーマンスへの影響: 若年男性を対象とした研究で、16時間の絶食が筋肉量を維持しつつ体脂肪を減少させた例や、隔日給餌されたマウスで走行持久力が向上したという報告があります。しかし、他の研究では、OMAD(夕食のみ)を11日間行った結果、最大酸素摂取量や筋力といった運動パフォーマンスの指標において、1日3食群との間に有意な差は見られなかったとされています。

認知機能や神経保護に関する研究は、現時点では動物実験が中心であり、ヒトにおけるOMADの直接的な効果についてはエビデンスがまだ限定的です。身体パフォーマンスへの影響も一貫していません。認知機能への潜在的な好影響は、血糖値の安定化、ケトン体の脳での利用、神経栄養因子(BDNFなど)の増加といった複数の生理学的メカニズムが関与している可能性があります。しかし、OMADによる極度の空腹感や栄養摂取の偏りが、逆に集中力の低下、疲労感、精神的な不安定さを引き起こし、これらの潜在的メリットを相殺、あるいは上回る可能性も十分に考慮する必要があります。理論的なメリットがあったとしても、OMADの実践に伴う困難さ(空腹、栄養管理)が、その効果を日常生活で体感できるレベルで発揮させることを妨げる可能性があります。OMADによる認知機能や身体パフォーマンスへの影響は、理論と実践の間にギャップが存在する可能性があり、個人の耐性や食事管理能力に大きく左右されるため、一律のメリットとして期待するのは早計であると言えます。

第3章: 一日一食の潜在的デメリットと健康上の危険性

3.1. 栄養摂取の課題と栄養失調リスク

1回の食事で1日分の必須栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、食物繊維など)をバランス良く、かつ十分に摂取することは極めて困難です。特に不足しやすい栄養素として、カルシウム、鉄分、ビタミンD、ビタミンB群(特にB12)、ヨウ素、亜鉛、マグネシウム、オメガ3系脂肪酸などが挙げられます。これらは身体機能の維持に不可欠な微量栄養素です。慢性的な栄養不足は、疲労感、倦怠感、免疫機能の低下(感染症へのかかりやすさ)、筋力低下、骨密度の低下(骨粗鬆症のリスク増大)、皮膚・髪・爪のトラブル、認知機能の低下、精神的な不安定など、多岐にわたる健康問題を引き起こす可能性があります。1回の食事で摂取できるカロリー量が、多くの成人にとって推奨される最低限の摂取カロリー(例えば1200kcal)を下回ってしまう可能性も指摘されています。これは、特に活動量の多い人や、体格の大きい人にとっては深刻なエネルギー不足を意味します。
OMADを実践する上で最大の障壁かつリスクとなるのが、栄養バランスの確保です。食事内容を極めて慎重に計画し、栄養価の高い食品を選択しなければ、容易に栄養失調状態に陥る危険性があります。短期間の栄養不足であれば身体はある程度対応できますが、OMADのような極端な食事制限が長期化した場合、特定の栄養素の欠乏は深刻かつ不可逆的な健康障害を引き起こす可能性があります。例えば、ビタミンB12欠乏による神経障害、鉄欠乏性貧血による持続的な疲労感や認知機能低下、カルシウム・ビタミンD不足による骨粗鬆症の進行などは、生活の質を著しく損なう可能性があります。これらの各栄養素の欠乏が引き起こす機能不全を考慮すると、OMADによる栄養失調リスクは、単なる「体調不良」を超えて、深刻な慢性疾患の発症や進行、さらには不可逆的な後遺症に繋がる可能性を秘めていると理解することが重要です。このリスクの重大性は、OMADを検討する際に最も重視すべき点の一つです

3.2. 身体的副作用

  • 低血糖: 長時間の絶食は血糖値を過度に低下させ、低血糖症状を引き起こすリスクがあります。特に、糖尿病治療中(インスリン注射や血糖降下薬服用中)の患者にとっては、重篤な低血糖は生命を脅かす可能性があります。低血糖の一般的な症状としては、めまい、ふらつき、冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感、集中力低下などがあります。重症化すると、意識混濁、異常行動、痙攣発作、昏睡に至ることもあります。
  • 消化器症状: 1回の食事で大量の食物を摂取するため、胃腸への負担が増大し、胃もたれ、消化不良、腹部膨満感、胸やけ、便秘、下痢などの消化器症状が現れることがあります。特に、脂肪分の多い食事や消化に時間のかかる食品を大量に摂取した場合に起こりやすいと考えられます。
  • 電解質異常: 長時間の絶食や、偏った食事内容によっては、体内の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)のバランスが崩れる可能性があります。これは、不整脈や筋力低下、神経系の機能異常などを引き起こす可能性があります。
  • その他の一般的な症状: 上記以外にも、立ちくらみ、持続的な倦怠感やエネルギー不足感、頭痛、吐き気、過敏性(イライラしやすくなる)などが報告されています。

OMADは、低血糖や消化器症状をはじめとする多様な身体的副作用を引き起こす可能性があり、これらが日常生活の質(QOL)を著しく低下させる場合があります。これらの副作用の現れ方や程度には大きな個人差があります。元々の体質、健康状態、食事内容、生活習慣などによって、副作用が軽微で済む人もいれば、重篤な状態に陥る人もいます。特に低血糖は、糖尿病患者でなくとも、インスリン感受性が高い人や、1回の食事内容が極端に偏っている場合に発生しうるため、QOLの低下だけでなく、事故リスク(めまいによる転倒など)や既存疾患の悪化にも繋がりかねません。

3.3. 代謝率とホルモンバランスへの影響

  • 基礎代謝の低下: 長期的なカロリー制限や、OMADに伴う可能性のある筋肉量の減少は、基礎代謝率を低下させる可能性があります。基礎代謝の低下は、身体がエネルギー消費を抑えようとする適応反応ですが、体重減少を目的とする場合には、減量の停滞やリバウンドのリスクを高める要因となります。
  • ホルモンバランスの乱れ:
  • 食欲関連ホルモン: OMADによる長時間の絶食は、空腹ホルモンであるグレリンのレベルを上昇させ、食事時に過剰な空腹感や食べ過ぎを引き起こす可能性があります。また、満腹ホルモンであるレプチンの感受性や分泌パターンにも影響を及ぼし、食欲調節メカニズム全体に変調をきたす可能性があります
  • ストレスホルモン: 極端な絶食は身体的ストレスとなり、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを上昇させる可能性があります。コルチゾールの慢性的な高値は、不安感の増大、睡眠障害、免疫機能の低下、さらにはインスリン抵抗性を助長し、OMADの潜在的な代謝改善効果を損なう可能性があります。
  • 性ホルモン: 特に女性においては、OMADのような極端な食事制限が性ホルモンバランスに悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。月経不順、無月経、排卵障害、妊孕性(妊娠しやすさ)の低下などが懸念されます。これは、視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌が、エネルギー不足や身体的ストレスに対して非常に敏感であり、抑制されることが一因と考えられています。

OMADは、エネルギー代謝と内分泌系に複雑かつ広範な影響を及ぼし、意図しない、あるいは望ましくない生理学的変化を招くことがあります。基礎代謝の低下は、OMADを体重管理の手段として選択した多くの人々にとって、長期的な成功を妨げる大きな落とし穴となり得ます。また、ホルモンバランスの乱れは、生殖機能のみならず、精神状態、骨代謝、免疫機能など、全身の恒常性維持に多大な影響を及ぼすため、特に長期的なOMADの実践は慎重な検討を要します。安易な導入は、不妊、骨粗鬆症リスクの増大(特に女性におけるエストロゲン低下による)、精神的な不安定といった深刻な結果に繋がる可能性があることを認識すべきです。

3.4. 精神的・心理的影響

  • 過度の空腹感とストレス: 約23時間という長時間の絶食は、多くの人にとって強い空腹感をもたらし、これが持続的な精神的ストレスとなる可能性があります。
  • 集中力の低下、イライラ感: 低血糖状態や極度の空腹は、脳のエネルギー供給に影響を与え、集中力の低下、思考力の散漫、記憶力の減退、感情のコントロール不全(イライラ感、怒りっぽさ)などを引き起こすことがあります。
  • 摂食障害リスク: OMADのような極端な食事制限は、過食症(特に1回の食事でのドカ食い)、拒食症、あるいは特定の食品への異常な執着といった摂食障害を発症させたり、既存の摂食障害を悪化させたりするリスクを高める可能性があります。食事に対する強迫観念や、食べることへの罪悪感、自己嫌悪感などを生み出すこともあります。
  • 社会的孤立: 食事は多くの社会活動の中心的な要素であり、OMADの実践は、家族や友人との会食、職場でのランチ、祝賀行事などへの参加を困難にし、結果として社会的な孤立感を深める可能性があります。

OMADは精神的・心理的な負担が大きく、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。摂食障害のリスクは特に深刻であり、過去に摂食障害の既往がある人や、完璧主義的な性格傾向を持つ人、ストレス対処が苦手な人はOMADを避けるべきです。生理的欲求である食欲の極端な抑制は、心理的ストレスを増大させ、認知機能や感情制御に負の影響を与え、食行動の異常へと繋がる悪循環を生み出す可能性があります。また、食事は単なる栄養摂取の手段であるだけでなく、コミュニケーションや文化、楽しみといった多面的な意味を持つ社会的行為であり、OMADによるその機会の著しい喪失は、精神的健康に対して無視できない負の影響を与えると考えられます。うつ症状、不安障害の悪化、対人関係の希薄化といった問題に発展する可能性も考慮する必要があります。

3.5. 特定の集団における禁忌と注意点

  • OMADは全ての人に適した食事法ではなく、特定の生理的状態や健康状態にある人々にとっては禁忌、あるいは極めて慎重な判断を要する食事法です。
  • 妊婦・授乳婦: 胎児や乳児の健全な成長と発達には、十分かつ継続的な栄養供給が不可欠です。OMADでは、母体および胎児・乳児に必要なエネルギーと多種多様な栄養素を1回の食事で安定的に確保することが極めて困難であり、深刻な栄養不足や発育障害のリスクがあるため、禁忌とされています。
  • 成長期の子ども・青年: 身体的・精神的に急速な成長発達を遂げるこの時期には、成人よりも多くのエネルギーと栄養素を必要とします。OMADによる食事制限は、成長に必要な要素の絶対的不足を招き、低身長、体重増加不良、学習能力の低下、免疫機能の未発達など、深刻かつ長期的な影響を及ぼす可能性があるため、禁忌です。
  • 高齢者: 高齢者は一般的に食事量の低下、消化吸収能力の低下、筋肉量の減少(サルコペニア)のリスクが高い状態にあります。OMADはこれらの問題をさらに助長し、栄養不足、フレイル(虚弱)、免疫力低下、骨粗鬆症の悪化などを招く可能性が高いため、原則として推奨されず、実施する場合には極めて慎重な医学的管理が必要です。
  • 糖尿病患者: 血糖コントロールの著しい不安定化(食後の高血糖と長時間の低血糖)、重篤な低血糖発作のリスクが非常に高いため、原則として禁忌です。特にインスリン療法や経口血糖降下薬を使用している患者にとっては、OMADは生命を脅かす危険性があります。もし検討する場合には、専門医による厳格な指導と綿密な血糖モニタリングが不可欠です。
  • 摂食障害の既往歴がある者: OMADの極端な制限性は、過食や拒食といった摂食障害の症状を再燃・悪化させるリスクが極めて高いため、禁忌とされています。
  • その他の基礎疾患保有者: 心血管疾患(高血圧、脂質異常症、心不全など)、消化器疾患(胃潰瘍、逆流性食道炎、炎症性腸疾患など)、腎疾患、肝疾患などの基礎疾患を持つ人は、OMADによって病状が悪化したり、治療に影響が出たりする可能性があるため、必ず主治医に相談し、その指示に従う必要があります。

これらの禁忌・注意対象群は、OMADによる生理学的ストレスや栄養不足の影響を特に受けやすく、深刻な健康被害に繋がる可能性が高いと言えます。成長障害、妊娠合併症の誘発、糖尿病合併症の急激な悪化、摂食障害の再燃といった事態は、生活の質を著しく損なうだけでなく、生命予後にも関わる可能性があります。安易な自己判断でのOMAD導入は絶対に避けるべきであり、医療専門家による個別のリスク評価と指導が不可欠です。

3.6. 心血管系への長期的な影響に関する研究

  • OMADまたはそれに類似した極端な食事パターンが、長期的に心血管系に負の影響を与える可能性を示唆する研究結果が報告されています。一部の研究では、OMADの実践がLDL(悪玉)コレステロール値や血圧を上昇させる可能性が指摘されています。これらは動脈硬化の進行を促進し、心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントのリスクを高める主要な因子です。
  • 特に注目すべきは、2022年に発表された大規模な観察研究の結果で、1日に1食しか摂らない食習慣を持つ人々は、1日3食を摂る人々と比較して、心血管疾患による死亡リスクおよび全死亡リスク(あらゆる原因による死亡リスク)が有意に高かったと報告されています。この研究では、具体的に朝食を欠食する習慣のある人は心血管死リスクが40%高いことなども示されました。また、8時間未満の食事時間制限と心血管死リスク上昇の関連を示唆する研究報告も存在します。

OMADの短期的な体重減少や一部の代謝マーカー改善効果が報告される一方で、長期的な心血管イベントリスクの増加を示唆するこれらの研究結果は、OMADの安全性評価において極めて重要な警鐘となります。この矛盾する可能性のある結果は、研究デザインの違い(例えば、観察研究か介入研究か)、追跡期間の長さ、研究対象者の背景(年齢、性別、既存疾患の有無など)、そしてOMAD実践中の具体的な食事内容など、多くの交絡因子によって影響を受けている可能性があります。しかし、現時点では、OMADの長期的な心血管系への安全性は確立されておらず、むしろリスクを高める可能性が示唆されているため、特に心血管疾患のリスクが高い個人や、既に心血管疾患を抱える患者は、OMADの実践を避けるべきと考えられます。

章4: 一日一食の実践:食事のタイミングと内容

4.1. 食事摂取のタイミングとサーカディアンリズム

  • OMADを実践する人々の多くは、その唯一の食事を夕食に設定する傾向があります。これは、日中の活動や仕事の都合、あるいは社会的な慣習に合わせやすいという理由が考えられます。
  • しかし、食事のタイミングが生体リズム(サーカディアンリズム)や代謝に影響を与える可能性を示唆する研究が複数存在します。
  • 朝食を摂取する方が、日中の血糖コントロールやインスリン感受性にとって有利である可能性が指摘されています。朝食の欠食は、OMAD実践者の一部(特に夕食OMADの場合)に当てはまります。
  • 夜遅い時間帯の食事摂取は、体重増加や心血管代謝リスクの上昇と関連し、体重減少を目指す上では不利になる可能性があるとの報告もあります。
  • 日本の研究グループからは、1日の食事を早朝の1回のみに設定した場合、夕食OMADと比較して、1日の糖代謝により有利な影響を及ぼす可能性があるという興味深い報告もなされています。
  • 一般的に、ヒトの代謝機能はサーカディアンリズムに同調しており、日中の活動期にエネルギー摂取と消費の効率が高まり、夜間の休息期には代謝が低下する傾向があります。このリズムに合わせた食事時間(例:日中の活動的な時間帯に食事を摂り、夜間は絶食する)が、代謝的健康の維持・増進に良い影響を与える可能性が指摘されています。

OMADにおける最適な食事タイミングは現時点では確立されておらず、個人のライフスタイル、活動パターン、遺伝的背景、さらには食事内容によっても影響を受ける可能性があります。サーカディアンリズムの観点からは、インスリン感受性が比較的高く、身体活動量も多い日中にエネルギーを摂取し、夜間は消化器官を休ませる方が生理学的であると考えられます。夕食に唯一の食事を集中させるOMADは、この自然な生体リズムに逆行する可能性があり、特にその食事が高カロリー・高糖質・高脂肪であった場合、夜間の血糖値や脂質代謝に悪影響を及ぼし、睡眠の質の低下や長期的な代謝異常のリスクを高める可能性を慎重に評価する必要があります。したがって、OMADの食事タイミングを選択する際には、単なる利便性だけでなく、これらの生理学的影響を十分に考慮することが求められます。

4.2. 一食で確保すべき栄養バランスと食事構成のポイント

  • OMADを実践する場合、その1回の食事で1日分の全ての必須栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)、十分な総カロリー、そしてビタミン、ミネラル、食物繊維を網羅的に摂取する必要があります。これは、OMADの成否を左右する最も重要な要素の一つです。
  • 栄養価の高いホールフード(未加工またはそれに近い食品)を中心に、多様な食品群(多種類の野菜、果物、魚介類、赤身の肉、鶏肉、卵、大豆製品などの良質なタンパク質源、ナッツ類、種実類、アボカド、良質な植物油などの脂質源、全粒穀物、芋類など)をバランス良く組み合わせることが強く推奨されます。
  • 特に、タンパク質は筋肉量の維持、ビタミン・ミネラルは各種代謝機能の維持、食物繊維は腸内環境の整備と血糖値の急上昇抑制に不可欠です。
  • 栄養摂取の不足が懸念される場合には、医療専門家の指導のもとで、特定の栄養素を補うためのサプリメントの活用も検討されることがあります。しかし、サプリメントはあくまで補助であり、バランスの取れた食事の代替にはなり得ません。
  • 外食や宴会などで食べ過ぎた翌日に、一時的にOMADを取り入れるといった短期的な調整方法として用いる場合には、胃腸への負担を考慮し、消化の良い高タンパク質な食材(例:温かいスープ、おかゆ、白身魚、豆腐、卵など)を選択することが推奨されます。

OMADにおける1回の食事は、単に空腹を満たすだけでなく、1日分の生命維持と活動に必要な全ての栄養素を供給するという極めて重要な役割を担います。したがって、その食事の「量」だけでなく、「質」が極めて重要となります。1回の食事で全ての栄養要求量を満たすことは、高度な栄養知識と緻密な食事計画、そしてそれを実行する強い意志がなければ非常に困難な作業であり、多くの実践者にとって達成が難しい可能性があります。栄養知識の不足や日々の忙しさからくる不適切な食品選択(例:高カロリーだが栄養価の低い加工食品への偏り)は、容易に深刻な栄養失調を招き、OMADの潜在的なメリットを帳消しにするだけでなく、むしろ健康を害する結果につながりかねません。OMADを安全かつ効果的に実践するためには、個々の栄養必要量に基づいた詳細な食事計画の立案と、それを忠実に実行する能力が不可欠であり、場合によっては管理栄養士などの専門家による個別指導が強く推奨されます。

章5: 一日一食の内臓への影響

5.1. 消化管(胃、腸)への負荷と適応

  • 消化器系の休息: OMADでは食事回数が1日1回に限定されるため、消化管が食物の消化・吸収活動から解放されている時間が大幅に長くなります。この長時間の「休息」が、胃腸の機能回復を促し、消化管粘膜の修復や、慢性的な消化器系の微細な炎症を抑制する効果に繋がる可能性があると一部で指摘されています。
  • 1回の食事量増加による負荷: その一方で、OMADでは1回の食事で1日分のカロリーと栄養素を摂取しようとするため、必然的に1回の食事量が非常に多くなる傾向があります。この大量の食物が一度に胃腸に送り込まれることは、消化管に対して大きな物理的・化学的負荷をかけることになります。
  • 結果として、胃もたれ、消化不良、腹部膨満感、げっぷ、胸やけ、さらには便秘や下痢といった様々な消化器症状を引き起こす可能性があります。特に、脂肪分の多い食事や食物繊維の急激な大量摂取は、これらの症状を誘発しやすいと考えられます。

消化管への影響は、絶食による「休息」という側面と、1回の「大量摂取」による負荷という、一見相反する二つの要素のバランスによって決まると言えます。長期間の観点から、消化管がこの極端な「絶食と大量摂取」のサイクルにどのように適応(あるいは不適応)していくのかについては、まだ不明な点が多いのが現状です。可能性としては、胃の容量が徐々に拡張したり、消化液の分泌パターンや腸の蠕動運動の様式が変化したりすることが考えられます。これらの変化が、個々の消化吸収能力や長期的な消化器系の健康にどのような影響を与えるのかについては、さらなる詳細な研究が必要です。特に、元々消化機能が弱い人や、過敏性腸症候群(IBS)などの消化器疾患を持つ人にとっては、OMADは症状を悪化させるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。

5.2. 肝臓および膵臓機能への影響

  • 肝臓の役割と負荷: 肝臓は栄養素の代謝と貯蔵、解毒など、生体内で極めて重要な役割を担っています。OMADにおける長時間の絶食時には、肝臓は貯蔵グリコーゲンの分解(糖放出)や、アミノ酸などからの糖新生を活発に行い、血糖値を維持しようとします。さらに絶食が続けば、脂肪酸からケトン体を産生し、脳などのエネルギー源として供給します。一方、1回の大量の食事摂取後は、吸収された多量の栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を処理し、必要に応じてグリコーゲンや中性脂肪として貯蔵するため、肝臓はフル稼働状態となります。
  • 一部の研究では、1日1食(特に夕食に集中させた場合)の実践により、LDLコレステロール値の上昇や、肝機能マーカーであるAST(GOT)、ALT(GPT)の上昇が認められたとの報告もあります。これは、肝臓への過度な脂質蓄積や炎症反応を示唆している可能性があります。
  • 膵臓の役割と負荷: 膵臓の主要な機能の一つは、血糖調節ホルモンであるインスリンの分泌です。OMADにおける1回の大量の食事、特に高糖質な食事は、食後の急激な血糖値上昇を引き起こし、それに対応するために膵臓のβ細胞から大量のインスリンを一度に分泌させる必要があります。このようなインスリン分泌の急峻なピークが繰り返されることは、膵臓β細胞に大きな負荷をかけ、長期的にはその疲弊を招く可能性があります。
  • 実際に、1日1食の食事パターンでインスリンの初期反応が遅延したという研究報告があり、これは膵臓β細胞の機能低下やインスリン抵抗性の初期兆候である可能性も考慮されます。

肝臓と膵臓は、OMADによる極端な絶食と大量摂食の繰り返しという代謝サイクルにおいて、栄養素の処理と貯蔵、血糖調節の中心的な役割を担うため、大きな生理学的ストレスと負荷を受ける可能性があります。長期的なOMADの実践が、肝臓における脂肪の過剰な蓄積(非アルコール性脂肪性肝疾患:NAFLD/NASH)や、膵臓β細胞の機能低下とインスリン抵抗性の進行・悪化に繋がるリスクがないか、極めて慎重な評価が必要です。特に、既にこれらの臓器に何らかの基礎疾患や機能低下(例:脂肪肝、耐糖能異常、初期の糖尿病など)を有する個人にとっては、OMADはこれらの状態を急速に悪化させる可能性があるため、原則として避けるべきと考えられます。

5.3. 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の変化とその意義

  • 近年の研究により、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が宿主の免疫、代謝、神経機能、さらには精神状態に至るまで、広範な生理機能に影響を与えることが明らかになっています。食事は腸内細菌叢の構成と機能に最も大きな影響を与える環境因子の一つであり、OMADのような極端な食事パターンは、腸内環境に大きな変化をもたらす可能性があります。
  • 断続的断食が腸内細菌叢の構成や多様性に影響を与えることが、主に動物実験や一部のヒト介入試験で示唆されています。
  • ある研究では、定期的な絶食(OMADそのものではないものの、長時間の絶食期間を含むプロトコル)により、腸内細菌の多様性が増加し、特にChristensenella(クリステンセネラ)のような、長寿や健康な代謝プロファイルとの関連が報告されている特定の細菌群が増加したと報告されています。
  • 時間制限食(TRF)は、腸内細菌叢を介して、消化管ホルモンのシグナル伝達、宿主の概日リズム(サーカディアンリズム)、エネルギー代謝調節、神経系への応答、さらには免疫・炎症経路にも影響を及ぼす可能性があると考えられています。

OMADのような極端な食事パターンが腸内環境にどのような特異的な変化をもたらすのか、そしてその変化が宿主の健康に長期的にどのような影響を及ぼすのかについては、まだ解明されていない点が多く、今後の重要な研究課題です。腸内細菌叢の変化は、OMADの潜在的なメリット(例:炎症抑制、代謝改善)やデメリット(例:栄養吸収効率の変化、特定の代謝産物の変動)を媒介する重要な要素となる可能性があります。また、1回の食事内容が腸内細菌叢に与える影響も非常に大きいため、OMADを実践する際の食事の質が、腸内環境の健全性を維持する上で極めて重要になると考えられます。例えば、食物繊維の豊富な食事が特定の有益菌の増殖を促す一方で、高脂肪・高糖質な食事がディスバイオーシス(腸内細菌叢のバランス異常)を引き起こす可能性も考慮する必要があります。

章6: 科学的エビデンスの現状と今後の研究課題

6.1. 主要な研究結果の概観と限界

OMADに関する科学的研究は、断続的断食というより広い枠組みの中で一部行われていますが、OMAD単独の健康効果とリスクを検証した質の高い長期間のヒト介入試験は依然として少ないのが現状です。既存の研究の多くは、サンプルサイズが小さい、介入期間が短い、特定の背景を持つ集団(例:健康な若年成人)を対象としているなどの限界があり、得られた結果を一般の人々に広く適用するには慎重な解釈が必要です。
また、OMADの具体的な実践方法(唯一の食事を摂取するタイミング、その食事の内容や量など)が研究によって異なるため、結果の一貫性が得られにくいという問題点も指摘されています。体重減少効果については、従来のカロリー制限食と比較してOMADが明確に優れているというエビデンスは不足しており、多くの場合、体重減少は総摂取カロリーの減少に起因すると考えられています。心血管疾患リスクや死亡率といった長期的な健康アウトカムに関する影響については、一部に懸念される報告(例:1日1食と死亡リスク上昇の関連)も存在しますが、これらの関連性の因果関係を明らかにするためには、さらなる質の高い研究が必要です。
現状のエビデンスは断片的であり、特にOMADの長期的な安全性と有効性については未知数な部分が多いと言わざるを得ません。メディアや個人の体験談などで喧伝されるOMADの「メリット」は、科学的根拠が不十分であったり、特定の条件下でのみ観察される限定的な効果であったりする可能性を常に念頭に置く必要があります。

6.2. 長期的な安全性と有効性に関するエビデンスの必要性

OMADを個人の健康増進や疾患予防のための持続可能な食事パターンとして推奨できるか否かを科学的に判断するためには、より質の高い、大規模かつ長期間にわたるランダム化比較試験(RCT)の実施が不可欠です。
特に、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中など)の発症率、がんの発症率、認知機能の変化、そして総死亡率といった、臨床的に意義のある「ハードエンドポイント」に対するOMADの長期的な影響を評価することが極めて重要です。また、年齢、性別、人種、遺伝的背景、基礎疾患の有無、ライフスタイルの異なる多様な集団において、OMADの効果と安全性を検証し、どのような人に適しているのか(あるいは適していないのか)を明らかにする必要があります。
さらに、OMADを実践する上での最適な栄養摂取基準(1回の食事で摂取すべきカロリー、タンパク質・脂質・炭水化物のバランス、必須ビタミン・ミネラルの種類と量など)に関するエビデンスも現状では不足しており、安全な実践ガイドラインの策定のためにもこれらの研究が求められます。OMADに関する現在の知識は、長期的な視点での判断材料としては不十分であり、「健康法」として広く一般に推奨するためには、短期的な効果だけでなく、長期的な安全性が厳密に確立されることが不可欠です。現時点では、OMADは確立された食事療法というよりも、依然として実験的な要素を含む食事法と捉えるべきであり、特に医療専門家の指導なしに自己判断で長期的に実践することは、未知のリスクを伴う可能性があるため推奨されません。

章7: 結論と専門的観点からの推奨事項

7.1. 一日一食の実施に関する総合的評価

一日一食(OMAD)は、一部の個人において、特に短期間での体重減少や特定の代謝マーカーの改善といったメリットをもたらす可能性が示唆されています。これらの効果は、主に総摂取カロリーの減少や長時間の絶食期間による生理学的応答に起因すると考えられます。しかし、これらのメリットが従来の持続可能なカロリー制限や、より穏やかな断続的断食法(例:16:8法)と比較して明確に優れているという強固なエビデンスは、現時点では不足しています。
一方で、OMADの実践には多くの潜在的なデメリットと健康上の危険性が伴います。最も懸念されるのは、1回の食事で1日分の必須栄養素をバランス良く十分に摂取することの困難さであり、これが長期化すると深刻な栄養失調やそれに伴う様々な健康障害(免疫力低下、骨密度低下、筋力低下など)を引き起こすリスクがあります。また、低血糖、消化器症状(胃もたれ、消化不良など)、基礎代謝の低下とそれに伴うリバウンドリスク、食欲関連ホルモンやストレスホルモンのバランス異常、精神的ストレス、集中力低下、そして摂食障害の発症・悪化リスクなども指摘されています。特定の集団(妊婦、授乳婦、成長期の子ども、高齢者、糖尿病患者、摂食障害既往者など)にとっては禁忌または極めて慎重な判断を要します。
さらに、OMADの長期的な安全性、特に心血管系への影響についてはエビデンスが乏しく、むしろ心血管疾患による死亡リスクの上昇を示唆する懸念すべき観察研究の結果も報告されています。
これらの点を総合的に勘案すると、OMADは潜在的なメリットに対して、デメリットや健康上のリスクが上回る可能性が高い食事法であり、一般的に全ての人に推奨できるものではありません。OMADの簡便さや一部で語られる劇的な効果に魅力を感じる場合でも、その裏に潜むリスクを十分に理解し、比較考量する必要があります。また、その極端な制限性から、長期的な持続可能性が低いことも大きな問題点として挙げられます。
表1: 一日一食(OMAD)の主なメリットとデメリットの要約

項目具体的内容補足・注意点
潜在的メリット体重減少主に総カロリー摂取量の減少による。他のカロリー制限法に対する優位性は不明確
脂肪燃焼促進長時間絶食によるメタボリックスイッチング
インスリン感受性向上(可能性)一貫したエビデンスはなく、食事内容や個人差が大きい
オートファジー活性化(可能性)主に動物実験や短期間のヒト研究。臨床的意義はさらなる検証が必要
消化器系の休息(可能性)1回の食事量増加による負荷とのバランスが問題
潜在的デメリットとリスク栄養不足・栄養失調ビタミン、ミネラル、タンパク質、食物繊維などの不足。深刻な健康問題に繋がる可能性
低血糖特に糖尿病患者やインスリン使用者で危険。健康な人でも起こりうる
消化器症状胃もたれ、消化不良、胸やけ、便秘など
基礎代謝低下・リバウンド筋肉量減少に伴う。長期的な体重管理を困難にする
ホルモンバランスの乱れ食欲ホルモン、ストレスホルモン、性ホルモンへの影響。特に女性で注意
精神的ストレス・集中力低下空腹感、イライラ、QOL低下
摂食障害リスク過食、拒食、食事への強迫観念
心血管疾患リスク上昇の懸念LDLコレステロール・血圧上昇の報告、死亡リスク上昇の観察研究あり
持続可能性の低さ極端な制限のため長期継続が困難

7.2. 実践を考慮する際の注意点と医療専門家との相談の重要性

OMADの実践を検討する場合には、その潜在的なリスクを十分に理解し、必ず事前に医師や管理栄養士といった医療専門家に相談することが不可欠です。専門家は、個々の健康状態、栄養状態、既往歴、ライフスタイル、そしてOMAD実践の目的などを総合的に評価し、その適否について医学的見地から助言を行うことができます。
特に、以下の表2に示すような基礎疾患を持つ人、特定の生理的状態にある人は、原則としてOMADを避けるべきか、あるいは極めて厳格な医学的管理下でのみ慎重に検討されるべきです。
表2: 一日一食(OMAD)が推奨されない、または特に注意を要する対象者群

対象者群OMADが推奨されない/注意を要する主な理由
妊婦・授乳婦胎児・乳児への必須栄養素供給不足、母体の健康リスク
成長期の子ども・青年成長・発達に必要なエネルギー・栄養素の絶対的不足、発育障害リスク
糖尿病患者(特に1型、インスリンや血糖降下薬使用者)重篤な低血糖リスク、血糖コントロールの著しい不安定化
摂食障害の既往歴がある者症状の再燃・悪化リスクが極めて高い
高齢者サルコペニア(筋肉減少症)の進行、栄養不足によるフレイル(虚弱)化リスク
心血管疾患、消化器疾患、腎疾患などの基礎疾患保有者原疾患の悪化、治療への悪影響のリスク

仮に医療専門家の指導のもとでOMADを試みる場合であっても、その1回の食事で必要な栄養素を最大限バランス良く摂取するための詳細な食事計画が不可欠です。栄養価の高い多様な食品を選び、適切なカロリー摂取を心がける必要があります [4, 6, 9]。また、実践中は定期的な健康診断(血液検査、体組成測定などを含む)を受け、自身の体調変化(体重、エネルギーレベル、消化器症状、精神状態など)を注意深くモニタリングすることが重要です。

万が一、OMAD実践中に何らかの体調不良や予期せぬ症状が現れた場合には、自己判断で継続せず、速やかにOMADを中止し、医療専門家に相談することが賢明です。個人の判断でOMADを開始・継続することは、潜在的な健康リスクを見逃し、深刻な事態を招く可能性があります。医療専門家は、個々のリスクとベネフィットを評価し、OMAD以外の、より安全で持続可能な健康増進法や体重管理法を提案することができます。OMADが唯一の解決策ではないこと、そして健康は何よりも優先されるべきであることを理解することが肝要です。

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