ドバイに潜む仮想通貨の闇:サム・リーとハイパーバースの真実

雑学

仮想通貨の世界で、多額の富を築く夢が語られる一方で、その裏側には、時に悲劇的な損失と巧妙な詐欺が隠されています。その一例が、「ドバイの億万長者仮想通貨アンダーワールド」と題されたブルームバーグ・オリジナルズの動画で明らかにされたサム・リーと彼の関わったプロジェクト、特にハイパーバース(HyperVerse)の物語です。

サム・リーとハイパーバースの台頭、そして崩壊

サム・リーは、かつて仮想通貨、特にビットコインの可能性を熱烈に擁護し、これを「フィンテック革命」の一部であり、インターネットが情報を民主化したように通貨を民主化するものと位置付けていました。彼は様々なニュースチャンネルに出演し、Appleの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックといった著名人からも支持を得るなど、その存在感は大きいものでした。彼の率いるハイパーバース(旧ハイパーファンド)は、投資家に対して「10倍、あるいは100倍もの驚異的なリターン」を約束し、多くの人々を魅了しました。投資家のルーパート・ハニーウッド氏は、2021年8月頃にハイパーファンドに関わり始め、コミュニティが「まるで教会のような雰囲気」で、「多大なポジティブさと高揚感」に満ちていたと振り返っています。

しかし、2022年にハイパーバースが突如として崩壊し、投資家は20億ドル近い巨額の損失を被ることになりました。米当局は、リーが約束した高額なリターンが、実態のないピラミッド・スキームとポンジ・スキームによって賄われていたとして、彼を詐欺で告発しました。プロジェクトの崩壊後、ルーパート氏は、引き出しが停止するという「極秘情報」を受け取り、事態の深刻さを理解するのに数日を要したと語っています。また、プロジェクトが雇用していたCEOが偽の俳優であったことも明らかになり、混乱に拍車をかけました。この一件で多額の損失を被ったルーパート氏の妻は一時非常に動揺しましたが、幸いにも許しを得られたとのことです。しかし、彼が英国の詐欺専門機関に連絡しても、返答は得られなかったといいます。崩壊後、サム・リー自身は、罪悪感に苛まれる「非常に暗い時期」だったと述べています。

ドバイへの「逃亡」と新たな企て:繰り返されるパターン

ハイパーバースの崩壊以前にも、サム・リーはオーストラリアを拠点とするブロックチェーン企業「Blockchain Global」の崩壊後、多額の資金(5000万豪ドル)が消えたとされる中でオーストラリアを去っています。その後、彼はドバイに姿を現しました。専門家は、過去10年間で、ドバイが仮想通貨詐欺が「非常に多発している場所」の一つであると指摘しています。ドバイに拠点を移して以来、リーは「Vidilook」、「Satoshi Square table stable Dow」、「We are all Satoshi」といった新たなベンチャーを精力的に立ち上げています。しかし、「We are all Satoshi」は、カリフォルニア当局からポンジ・スキームおよびピラミッド・スキームであるとして、すでに停止命令を受けています。リーは自身の行為を正当化し、規制当局が新しい金融形態としての仮想通貨やマルチレベルマーケティングに脅威を感じているためだと主張しています。

なぜドバイなのか?:詐欺師を引き寄せる経済環境

ドバイがなぜこのような「怪しいビジネス」の磁石となっているのかという疑問は、その歴史と経済戦略に深く根ざしています。ドバイは、「グローバル貿易の中心地」となることを目指し、これまで石油、金融、そして現在はテクノロジーへとその焦点を移してきました。最高の才能とビジネスを引き寄せるために、**ビジネスを容易にする「税制と規制の環境」**を整備してきました。

しかし、この積極的な誘致策は、合法的なビジネスだけでなく、「様々なテクノロジー系のピラミッド・スキームやポンジ・スキーム」の温床ともなってしまっています。アラブ首長国連邦(UAE)はかつて、違法金融対策が不十分であるとして「グレーリスト」に指定されていましたが、昨年初めには解除されています。国は金融セクターを浄化するための公的な努力はしているものの、これらの措置がどれほど効果的であったか、また十分な対策が取られているかについては疑問が残るとされています。実際、ドバイの地下鉄駅の一つが、米当局がピラミッド・スキームと認定した「OnPassive」という会社によってスポンサーされているという事例もあります。サム・リー自身も**「ドバイを愛している」**と公言し、UAEの規制枠組みが既存のプラットフォームに恩恵をもたらしていると語っています。

正義を求める戦いとサム・リーの現在

サム・リーのような詐欺師と戦い、警鐘を鳴らし続けている人々も存在します。ダニー・デックは、リーの会社を含むこのような詐欺と3年近くにわたり戦い、自身のYouTubeチャンネルで1700本もの関連動画を公開しています。彼は、これらの会社が「何もない上に築かれている」と述べ、人々が「ただ信じたいだけ」であることを指摘します。ダニー自身もかつて特定の宗教組織に属し、その中で信じ込まされた経験から、現在の詐欺の手法に「衝撃的な類似性」を見出していると語っています。

リーの新たなベンチャーの一つである「We are all Satoshi」を引き継いだチャベス・アノワールは、その会社のビットコインがVisaに支援されていると主張しましたが、Visaは彼を知らないと述べています。また、彼がドバイの規制当局と頻繁に協力しているという主張も、当局によって否定されています。

Sam Leeの所在は一時不明でしたが、その後、Interpol(国際刑事警察機構)の国際手配通知が発行された後、ドバイ当局に自ら投降し、60日間拘束され、その後釈放されたことが明らかになりました。彼は、自分は「人々を助けようとしただけ」なのに、規制当局が「誤った、中傷的な言葉を使う」ことに不満を表明しています。また、彼は、自分の知識を完全に理解し、適用した初期の投資家は皆利益を上げたが、そうでない人々が損失を被ったと主張しています。

国境を越えた詐欺に対し、当局が行動を起こすことが困難な中、ダニーのような個人が疑わしいスキームについて警鐘を鳴らす役割を担っています。チャベスのような人物からの名誉毀損訴訟の脅しにもかかわらず、ダニーは自身の「闘い」を続ける決意を固めています。この物語は、サム・リー個人のみに留まらず、ドバイがこのような疑わしいスキームの温床となり続けるならば、その被害はさらに拡大する可能性を秘めていることを示唆しています。

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