昨年ルーマニア大統領選挙で、事前調査の支持率1%未満の泡沫候補であったカリン・ジョルジェスク氏が、第1回投票で得票率23%を記録し首位に躍進する事象が発生しました。これは、TikTokを軸としたSNS戦略で柔道や乗馬のパフォーマンスのショート動画拡散と、2017年のドナルド・トランプ大統領当選時も言われていたロシア関与がルーマニアの大統領選挙でも疑われる偽情報工作が複合的に作用した結果でした。
ネットで覚醒した有権者層
この現象は日本にも波及事例が見られます。
- 2024年7月東京都知事選
石丸伸二候補が得票率24.3%(得票数1,658,363票)を獲得し、惜しくも当選には至らず - 2024年11月兵庫県知事選
斎藤元彦氏が得票率45.2%(得票数1,113,911票)で再選を果たす
両事例に共通するのは、「ネットで覚醒した有権者層」の存在で、短時間でインパクトを与えるTikTok動画がアルゴリズムで拡散され、従来の選挙運動を凌駕する影響力を発揮しています。特に「#はめられた」「#ネットで真実」などのハッシュタグが若年層の共感を呼び、目覚めた人の投票行動を喚起する傾向が顕著です。
また、ネットで目覚めた人がリアル世界でも友人・知人に風潮していると思われネット含めリアルでも無限に拡散してく仕組みとなっています。
兵庫県知事選で私が注目していたのはネット上に真偽不明な情報が拡散され、オールドメディアを見ていると真実に気付けないし、むしろ都合が悪いからオールドメディアでは取り上げないという理論展開で、ネット情報が物量で圧倒してしまったことで、情報の質よりも量が正義となったことです。
民主主義のジレンマ
ルーマニアでは、ロシアの資金提供を受けたインフルエンサーが選挙介入した事実が判明し、憲法裁判所が第1回投票を無効化。ジョルジェスク氏は出馬禁止処分を受けました。ここで浮上するのは「SNSで形成された民意は正当か?」という根源的な問いです。
日本では大統領制ではないため急進的な政変リスクは低いものの、地方選挙では同様の事態が現実化し得ます。2025年統一地方選を控え、以下の課題が注目されます:
- 虚偽情報拡散への法的規制の是非
- プラットフォーム企業の選挙広告審査基準
- 有権者のデジタル・リテラシー向上策
2024年11月からのルーマニア大統領選時系列
- 2024/11/24大統領選挙第1回投票で「泡沫候補」が首位に躍進
- 事前の世論調査で支持率1%未満だったジョルジェスク氏が、得票率23%で第1回投票の首位となった。
- 選挙戦略としてTikTokを中心にSNSを活用し、集会を開かず動画投稿(柔道や乗馬の映像など)で若年層を中心に支持を集めた。
- ロシア寄りの主張(NATO批判、ウクライナ支援停止の訴え)や「ルーマニア第一」を掲げた。
- 2024/11/28憲法裁判所が再集計を命令
- TikTokがジョルジェスク氏に「優遇措置」を与えた疑惑(政治広告表示の不備など)を受け、憲法裁判所が第1回投票の再集計を指示。
- 再集計の実施方法や日程は中央選挙管理委員会が決定すると発表された。
- 2024/12/1議会選挙実施
与党・社会民主党(PSD)が過半数を確保できず、極右政党「ルーマニア統一同盟(AUR)」が議席を倍増させ第二党に躍進
- 2024/12/2憲法裁判所が第1回投票結果を一時承認
- 再集計の結果、不正が確認されなかったとして、第1回投票の有効性を承認。
- 12月8日の決選投票実施が確定し、ジョルジェスク氏と野党・ルーマニア救国同盟(USR)のエレナ・ラスコニ氏(得票率19%)の対決が予定された。
- 2024/12/4機密文書公開とロシア介入疑惑の浮上
- クラウス・ヨハニス大統領が、国家防衛最高評議会の文書を機密解除。
- 文書には、ロシア関与が疑われる約800件のTikTokアカウントがジョルジェスク氏を支持し、計38万1000ドルの資金がインフルエンサーに支払われた事実が記載されていた。
- 2024/12/6憲法裁判所が第1回投票を無効と判断
- 外国(ロシア)による影響工作が選挙結果を歪めたと判断し、第1回投票を無効に。
- 選挙全体のやり直しが決定され、当初予定されていた12月8日の決選投票は中止。
- ジョルジェスク氏は判決を「形式化されたクーデター」と批判し、再出馬を表明。
- 2024/12/22新たな選挙日程の発表
- 政府が2025年5月4日に再選挙を実施すると発表。
- ジョルジェスク氏の出馬意向は未確定だが、主要政党は警戒感を強めた。
背景と影響
- ロシア介入疑惑
ルーマニア情報機関は、ロシアがハイブリッド戦争(サイバー攻撃や偽情報拡散)で選挙に干渉したと指摘。 - 国内の政治不信
既存政党への不満が極右候補の台頭を後押しし、選挙無効判断後も抗議デモが続発。 - 国際的な懸念
ルーマニアはNATOの東端に位置し、ウクライナ支援の要衝であるため、親ロシア派の勝利は欧州の安全保障に影響を与える可能性がある。
この一連の出来事は、SNSを活用した新たな選挙戦略の影響力と、外国介入が民主主義プロセスに与えるリスクを浮き彫りにしました。
参考



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