「底が抜けた国 自浄能力を失った日本は再生できるのか?」の書評

読書

5000万円もの巨額脱税が単なる帳簿不記載との判断でお咎めなし。政治家であるならば尚更高い倫理観が求められる立場で、やりたい放題の現状は「法と倫理の崩壊」と言わざるを得ません。メディアの権力監視機能は不全をきたし、何よりもガバナンス体制が形骸化していることで、国際的な信頼を失墜させています。アジア諸国では賄賂が常態化していると指摘されますが、日本では政治家自らが裏金作りに奔走し、国民の疲弊を顧みることなく増税を強行する状況は正気の沙汰とは思えません。

世襲政治、裏金問題、統一教会との癒着構造(SUT)を見るにつけ、もはや政治家がどこに向かって政治を行っているのか疑問です。特に政治団体が非課税制度を悪用し、資産をそのまま引き継げる仕組みは税法上の重大な抜け穴と言えるでしょう。

氏名派閥不記載金額
1大野泰正安倍派(参)5154万円
2池田佳隆安倍派(衆)4826万円
3谷川弥一安倍派
※議員辞職
4355万円
4二階俊博二階派3526万円
5三ツ林裕巳 安倍派2954万円
6萩生田光一安倍派
※安倍派5人衆
2728万円
7山谷えり子安倍派2403万円
8堀井学安倍派2196万円
9橋本聖子安倍派2057万円
10中根一幸安倍派1860万円
11杉田水脈 安倍派1564万円
12世耕弘成安倍派
※安倍派5人衆
1542万円
13林幹雄二階派1512万円
14宗清皇一安倍派1408万円
15福井照二階派
※元衆院議員
1254万円
16長崎幸太郎二階派
※元衆院議員、現山梨県知事
1182万円
17武田良太二階派1172万円
18平沢勝栄二階派1080万円
19衛藤征士郎安倍派1070万円
20松野博一安倍派
※安倍派5人衆
1051万円
21高木毅安倍派
※安倍派5人衆
1019万円
22和田義明安倍派990万円
23宮本周司安倍派974万円
24簗和生安倍派924万円
25柴山昌彦安倍派896万円
26堀井巌安倍派876万円
27小田原潔安倍派844万円
28関芳弘安倍派836万円
29丸川珠代安倍派822万円
30馳浩安倍派
※元衆院議員、現石川県知事
819万円

内容紹介

裏金脱税 軍備偏重 政教癒着 貧富格差 自己責任…。一体どこから手をつけたらいいのか?現代日本社会の状況を「歴史」の観点で読み解く!公的記録や法律・データを提示して徹底的に検証。

目次

第一章 平和国家の底が抜け、戦争を引き寄せる自民党政府(“いとも簡単に既成事実化された「専守防衛の放棄」”/“日本の軍備増強と三菱重工業”/“岸田政権が既成事実化し拡大しつつある「兵器輸出」政策” ほか)

第二章 倫理の底が抜け、悪人が処罰されなくなった日本社会(“戦後政治史で空前の自民党「大量裏金脱税」事件”/“なぜか「ほぼ不起訴」の日本の検察と「追徴課税しない」国税庁”/“与党自民党と旧統一教会のグレーな互助関係” ほか)

第三章 公正の底が抜けても、不条理に従い続ける日本国民(“「大企業優遇政策」へと舵を切った安倍晋三と自民党政権”/“自民党政権が進める軍備増強は本当に「国民を守るため」なのか”/“人を粗末にする政府と、それに慣れてしまった国民” ほか)

著者情報

山崎雅弘(ヤマザキマサヒロ)
1967年大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。軍事面だけでなく、政治や民族、文化、宗教など、様々な角度から過去の戦争や紛争に光を当て、俯瞰的に分析・概説する記事を、1999年より雑誌「歴史群像」で連載中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

個人的メモ

  1. 「底が抜けた社会」の実態
    • 政治腐敗・大企業優遇・軍拡加速・メディア劣化・国民無関心が複合的に連鎖
    • 民主主義の根幹を担う検察とジャーナリズムの機能不全が常態化
  2. 政治権力の腐敗構造
    • 自民党政治家の裏金問題/脱税/統一教会問題が不問に付される実態
    • 責任回避システムの確立:
      → 過去(議員辞職/逮捕) vs 現在(責任追及なし)
    • 政界と財界の癒着構造
      → 企業献金 ⇄ 大企業優遇政策の循環
      → 株主/経営者利益優先 ⇨ 格差拡大
  3. 安全保障政策の転換
    • 専守防衛放棄から「戦争ができる国」への急激な変貌
    • 戦後日本の平和国家理念の崩壊リスク
  4. メディアの変質と監視機能喪失
    • 政治的圧力/経済的利益によるジャーナリズムの自立性喪失
    • 政府プロパガンダ装置化 ⇨ 権力監視機能の空洞化
  5. 社会システムの劣化メカニズム
    • 先進国から後進国型構造への逆行
      → 政財官癒着構造が発展途上国様式に接近
    • 不正がエスカレートする逆インセンティブ構造
      → 権力犯罪が処罰されない ⇨ 腐敗の常態化
  6. 国民意識の変容
    • 自己責任論の蔓延 ⇨ 社会的弱者切り捨ての容認
    • 政治不信と無関心の悪循環 ⇨ 民主主義の空洞化
  7. システム全体の危機的連鎖
    • 政治腐敗
    • メディア監視機能喪失
    • 検察の不作為
    • 国民の無力感増大
    • 更なる権力暴走
  1. 根本的課題
    • 公益(国民全体の利益)より私益(権力者/企業利益)が優先される構造
    • 民主主義の自浄作用を支える三権分立・第四権力(メディア)の同時崩壊
  2. メディアの監視機能喪失の構造
    • 政府との癒着要因
      → 政治的圧力(情報操作)
      → 経済的誘因(広告費・消費税優遇等の見返り)
    • 報道の自己規制
      → 政権批判的な情報の意図的排除
      → 「第四の権力」としての機能停止
  3. 政府の情報統制と説明責任の欠如
    • 情報非開示の常態化
      → 「説明を差し控える」が定型句に
      → 国会質問の形骸化(論理的討論の消失)
    • 政治家の無答責風潮
      → 記者の追及力低下 ⇨ 説明義務の回避が常態化
  4. 民主主義の空洞化プロセス
    • メディアの監視機能喪失
    • 政府の情報操作強化
    • 国民の情報アクセス制限
    • 民意形成の歪み ⇨ 権力暴走の加速
  5. 歴史的教訓との相似性
    • 戦前日本の再現リスク
      → 軍部暴走 ⇨ メディアの責任放棄 ⇨ 国家破滅の構造
    • 民主主義後退の兆候
      → 過去10年で顕著化した権力監視システムの崩壊
  6. 危機の本質と再生への道筋
    • 社会の自浄作用喪失
      → 不正常態化 ⇨ 倫理崩壊 ⇨ 次世代への負の遺産
    • 行動指針
      → 個人レベル:選挙参加・権力監視の継続
      → 社会レベル:歴史学習を通じた問題意識の共有
  7. 変革の可能性
    • 歴史の法則性
      → 腐敗が極限に達した時、変革運動が発生(過去の社会運動参照)
    • 再生の要件
      → 諦観の打破 ⇨ 小さな声の積み重ね ⇨ 制度的改革への圧力

レビュー

ねりはま
ねりはま

詭弁を多用した安倍晋三によって底が抜けた国の行きつく先に戦慄を覚える

2024年12月29日に日本でレビュー済み

筆者が第3章で述べている「傲慢で無責任で、国民の暮らしを守ることに関心がない権力集団が、この国の舵を掌握し、日本が動乱期へと再び足を踏み入れつつあるように強く感じられる現在、その問いへの答えが楽観的なものであるとは、私は予想していません。」という文章に強く賛同するとともに、この国の行きつく先に戦慄を覚えた。我々は「敗戦の教訓」を未来のために役立てて、同じ失敗を繰り返すことを回避せねばならない。

台湾有事は日本の有事という詭弁を弄する安倍晋三・自民党と、第2次安倍政権以降、金儲けのためなら軍備増強や兵器輸出を歓迎するようになった日本の財界人が、「戦争という多くの人を不幸にする人災が起きた時、自分のビジネス=金儲けに繫がる」という発想で、国民の命を軽視するような行動に走るような気がしてならないのである。そして「報道人としての責任感も職業的矜持も持たない政治記者ばかりになった」大手メディアに権力の監視を期待することも出来そうにない。

本書では述べられていないが、2012年に発足した第2次安倍政権が打ち出したアベノミクスと3本の矢によって、この国の財政規律の底も抜けてしまった。その副作用や過去12年の低成長ぶりに日本国民は気付かなかったが、新型コロナ後に押し寄せる訪日外国人の物価感覚や旺盛な消費行動を目の当たりにして、日本はもはや先進国とは言えない所得水準に落ち込んだのではないかという事実に気付き始めたと思う。
第1の矢である「大胆な金融政策」については、去る12月19日に日本銀行自身ががまとめた検証結果「多角的レビュー」で、黒田東彦前総裁の下で2013年4月に導入した異次元緩和は「当初想定したほどの効果は発揮しなかった」と婉曲的な表現がされているが、要するに失敗だったのである。
第2の矢である「機動的な財政政策」は、日銀の国債大量保有を通じて超円安を招き、公的債務残高の対GDP比をG7諸国で突出して高い水準に押し上げて後世に大きな負担を先送りしたという点で明らかに失敗だった。
第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」が成功したのかは意見が分かれるところだが、2%以上の経済成長率や実質賃金の上昇という目標は新型コロナ後まで達成されることはなく、新型コロナ後のインバウンド客の消費行動や国外の物価水準を見て、多くの国民が日本は相対的に貧しくなったと感じている点で、成功したとは言い難いのではないか。

1980年代まで、日本は「経済は一流、政治は三流(だが官僚が一流だからもっている)」と言われていたような気がするが、いつのまにか経済は一流の座を滑り落ち、官僚も政治家に人事権を握られてからは公僕たる矜持を投げ捨て、「三流政治家」の意向を忖度して働く下僕に変貌してしまった。

この流れを変えるにはどうしたら良いか。最大の病理は、国会で詭弁を続け不正・腐敗をウヤムヤにし続け権力の座に居続ける第2次安倍政権後の自民党にあるというのが本書を読んで得た結論なので、一つの解決策はいまの自民党の体質を根本的に変える党首に登場してもらうことなのだが、少数与党になって「正論アウトサイダー」石破茂を党首にしても自民党が変わる兆しは感じられない。であるとすれば、選挙で政権交代を促す他にないように思うのである。

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羊たちの沈黙

2025年1月8日に日本でレビュー済み

トラブルが続出しそれが故に普及が進んでいないにもかかわらず、異様な頑なさで推進を強行する「マイナ保険証」。政府のマイナンバー事業を計123億1200万円で受注した企業5社のうち、日立製作所と富士通、NEC、NTTデータの4社が2014年から2021年までの間に計5億8000万円を自民党に献金してきたと「しんぶん赤旗」は報じた。自民党に高額献金した各企業には、内閣府や総務省、財務省、経済産業省、国土交通省などの幹部が多数天下りしたと伝えた。まるでロシアのオリガルヒと官僚との関係を彷彿とさせる。「マイナ保険証」の普及に伴う従来の健康保険証廃止について、経団連と並ぶ経済団体「経済同友会」の代表理事を務める新浪剛史代表幹事は、記者会見で次のように述べた。「納期、納期であります。民間はこの納期って大変重要で必ず守ってやり遂げる。これが日本の大変重要な文化でありますから、ぜひとも保険証廃止を実現するよう、納期に向けてしっかりやっていただきたい。」彼らは本当は日本の「健康保険制度」を廃止したいのか?政府と与党、経済界にとっては国民の健康より自分たちの利益のほうが大事なようだ。我々国民は、彼らのような存在に自分たちの健康や命を差し出してしまっていいのだろうか?
昭和の大日本帝国時代、政府や軍部の言う「国を守る」とは、実際には「天皇と天皇中心の国家体制(国体)を守ること=国体護持」であり、日本で暮らす国民は「守られる対象」ではなかった。「能登半島地震」から1年が経つが、被災地の状況はどうだろうか?「見捨てられている。」と言ってもいい状況なのではないか?この国は被災地の人の命や生活よりも、人員や資材を優先した「万博」という「お祭りイベント」のほうが大事なようだ。ひょっとして万博が済めば跡地を(建物も?)「カジノ」に再利用しようという魂胆なのか?
与党の裏金=脱税問題も既に忘れ去られたようだ。我々が脱税すると大変なことになるが、政権与党の国会議員が行うとお咎めなしのようだ。この国は「法治国家」ではないようだ。
今から思えば「アベノミクス」とは何だったのだろうか?自国の通貨を安くするような政策が、果たして本当に自国のためになったのだろうか?自国の通貨を安くしてしまったために、食料と資源を大量に輸入しなければならないこの国の多くの国民は物価高に苦しんでいるのではないのか? さらに金融と保険を除いた国内企業の2023年度の「内部留保」が、その前の年度より8・3パーセント増加した600兆9800億円で、12年続けて増加している中でも「過去最高の額」になった。本来なら従業員の賃金に上乗せして払うべき「利益剰余金」だが、それを賃金に回さずに貯め込むことで結果として従業員の暮らしが「物価高で圧迫され困窮している状況」を傍観し、放置している。こんな理不尽な状況が長く続けば、国民が一定の権利意識を持つ国なら「ストライキ」で経営者に対抗し、正当な賃金を勝ち取ろうとするだろう。かつては珍しくはなかったストライキ。しかし今の日本は極端に「ストライキが起きない国」となっている。今や日本の「国民」は、「大日本帝国」時代の「臣民」に戻ってしまったのではないか?
日本社会では政界・官界・財界・メディア+電通などの大手広告代理店という勢力が、巨大な「支配層」を形成した。 社会の枢要な地位にある人間たちが、良識や節度を捨てて、私益の追求のみを考えている。日本はプーチンロシアそっくりの国になった。

参考

令和の大増税は“江戸時代の五公五民”より過酷?「真の国民負担率」で見る不都合な真実
「増税メガネ」という言葉が流行語大賞のノミネートを逃したのが忖度かどうかはさておくとして、大増税による国民生活の窮乏は事実である。増税の是非はともかく、国民負担率5割ともされる目下の租税公課負担は、よく江戸時代の「五公五民」に例えられている...
【独自取材】自民党“裏金”リスト86人 最も多い使い道「事務所で保管」 脱税の可能性?|日テレNEWS NNN
自民党派閥の政治資金をめぐる事件で、派閥からキックバックを受けたり、パーティー券収入の一部を中抜き・プールしたりするなど、いわゆる“裏金”を受け取っていたことが分かった自民党議員は何人いるのか。そして“裏金”の使途は。日本テレビが緊急取材。...

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