エマニュエル・トット氏の話題の著書「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」についてです。この本が、今の国際情勢をどう分析しているのか、動画の内容をもとに分かりやすく解説しますね。トット氏は、特にウクライナの出来事を通して、西洋の国々、具体的にはアメリカやヨーロッパがちょっと元気がないんじゃない?という視点から、新しい世界のカタチを読み解こうとしています。彼曰く、ウクライナでの争いはロシアの勝利に終わるだろうと予測していて、それが世界のパワーバランスを根っこから変えちゃうと考えているんです。彼の分析、ちょっと刺激的だけど面白いんですよ。
ウクライナの出来事が示す「西洋の敗北」って?
この本のど真ん中にあるのは、ウクライナでの出来事が「西洋の敗北」をはっきり見せているという考え方です。トット氏は、ウクライナはもう負けがほぼ決まっている、そしてアメリカは「命の安い国」(つまりウクライナ)に戦争を代わりにやらせているんだ、と結構厳しい見方をしています。さらに、ロシアが極超音速ミサイルみたいな最新の軍事技術を持ってるのに、アメリカはそうじゃないことなどを挙げて、ロシアの軍事的な強さを強調しています。
このウクライナでの出来事を理解するには、ウクライナとロシアの長い歴史を知っておくことが大切だと言います。例えば、今から1000年以上前のキエフ・ルーシという国が、今のロシア、ウクライナ、ベラルーシのもとになっているんです。また、ソ連時代にはウクライナが重要な場所で、特にクリミア半島のセバストポリはソ連の海軍にとってすごく大事な港でした。ソ連がなくなった後、この場所をどうするかが今の問題の一つの原因になっているんですね。トット氏は、この争いを単なる領土問題として見るんじゃなくて、もっと大きな視点、つまり人類学と地政学を組み合わせて見ているんです。
アメリカとヨーロッパ、ホントに力が落ちてるの?
本書では、アメリカやヨーロッパの元気がない状況についても深く掘り下げています。トット氏は、アメリカはもう「ものを作らず、ドルだけを作っている国」になっているとバッサリ。これは、アメリカの経済がなんだか空洞化している、ということみたいです。実際、アメリカでモノを作る産業がGDPに占める割合はどんどん減っていて、代わりに金融サービスが増えている、というデータもあって、トット氏の指摘と重なる部分があります。加えて、アメリカの教育がダメになってきていることや、本当の意味での優秀なエリートがいなくなっちゃったことも、国力が落ちた大きな理由だと分析しています。国際的な学力テスト(PISA調査)でアメリカの成績があまり高くない、というデータもあるんです。
ヨーロッパについても手厳しい見方です。多くのヨーロッパの国がアメリカに頼りきりになっちゃっていて、特に東ヨーロッパの国は「反ロシア!」という気持ちと、ドイツ経済の力に影響されている状況を批判しています。ただ、ハンガリーみたいな例外もあると述べていますね。最近のエネルギーの問題なんかも、ヨーロッパがアメリカにさらに頼らざるを得なくなる可能性を示唆しているみたいです。
日本や北欧、他の国々はどんな感じ?
この本、日本や北欧など、色々な地域の話が出てくるのが面白いところです。トット氏は、日本とドイツを「直系社会」と捉えていて、そこのリーダーたちは「大変な立場」にいると指摘しています。直系社会っていうのは、長男が家を継ぐ、みたいに世代を超えて受け継ぐことを大事にする社会の仕組みのこと。日本の会社によくある年功序列とか終身雇用とか、家族経営の中小企業が多いことなんかは、この直系社会の特徴と関係があるのかもしれません。あと、日本がLGBTQの法律を作ったのは、アメリカとの同盟関係のためだったんじゃないか、という見方を示していて、日本の外交と国内のことがどう繋がっているのか、新しい視点をくれます。国際的な人権の動きなんかも背景にある可能性はありますね。
北欧の国については、フェミニズム(男女平等を進める考え方)と好戦的になることが関係している、と指摘しているのが興味深いです。え、どういうこと?って思っちゃいますよね。トット氏の分析では、北欧で男女平等がすごく進んだ結果、皮肉にも軍事的な強い路線が生まれている、と言うんです。例えば、スウェーデンでは男女両方に兵役の義務が復活したり、フィンランドでは女性が積極的に軍事訓練に参加したりしているんです。これは、男女平等も国防をしっかりやることも、北欧の国にとっては「みんな平等で強い国」を目指す上でどっちも大事、って思われてるからなのかもしれないですね。
他にも、「その他の世界」の多くの国がロシアを支持する傾向がある、という指摘もしています。これは、今までの「東側 vs 西側」っていう単純な図では説明できない、もっと複雑な世界になっていることを示しています。国と国の関係を、単にどっちが強いか、だけじゃなくて、その国の文化や価値観、アイデンティティなんかも含めて考える「構成主義」っていう考え方で捉えると、この現象も理解しやすいかもしれません。
トット氏のユニークな分析方法と「世界のリアル」
エマニュエル・トット氏の分析が面白いのは、人類学と地政学をガッチャンコさせているところなんです。彼は、社会を動かす人の考え方とか意識には、政治や経済みたいに50年くらいで変わるもの、教育みたいに500年くらいかかるもの、そして家族の仕組みみたいに5000年とか、もっと長い時間をかけて影響するものがあると考えています。宗教も家族の仕組みの半分くらいの期間、人の心に影響してきた、と。こういうすごく長い目で国際情勢を見ようとするのが彼のスタイルです。
文化人類学的な視点があると、それぞれの国や地域がどんな文化や価値観を持っているのかが分かります。例えば、ロシアが強いリーダーを求めるのは、昔からトップダウンの政治が長かったことと関係があるのかも、とか。一方で、地政学的な視点では、国と国の力関係とか、どこに資源があるか、とかを見ます。これを組み合わせることで、トット氏は国際情勢を色々な角度から分析しているんですね。彼が言う「直系社会」の考え方は、有名な文化人類学者レヴィ=ストロースさんの考え方とも繋がるところがあるみたいです。
そして、トット氏が示す「世界のリアル」という概念も重要です。彼は「戦争は世界の本当の姿をむき出しにするリトマス試験紙だ」と言っていて、ウクライナでの出来事を通して見えてきた色々な真実について語っています。例えば、ウクライナが「代理出産(他の女性にお金を出して赤ちゃんを産んでもらうこと)の天国」みたいになっている状況 や、アメリカの情報機関が敵の国よりも味方の国を監視しているんじゃないか、という指摘 は、聞くとドキッとしますよね。ウクライナでの代理出産は、グローバル化が進んだ世界で、経済的に弱い立場の人たちの体が「商品」みたいになってしまう、という倫理的な問題を象徴しているとも言えます。
この本が示唆する、ちょっと深い話
トット氏の分析は、単に今の世界の状況を説明するだけじゃなくて、もっと根深い問題も示唆しています。例えば、彼が言う「西洋の敗北」は、単にお金や軍事力が弱くなった、というだけでなく、西洋の文化や考え方の根本が揺らいでいることを示唆しているんです。昔、ヨーロッパで生まれた「啓蒙思想」(理性とか科学を大事にして、人の自由や平等を追求する考え方) や、「プロテスタントの労働倫理」(勤勉に働いて貯めることを良いとすること) が、今の西洋社会では薄れてきている、という分析もあります。これは、私たちにとって当たり前だと思っていた社会のあり方を見直すきっかけになるかもしれません。
また、技術がどんどん進化すること(AIとか) や、環境問題、情報が溢れる社会の難しさ など、私たちが直面している様々な課題についても深い洞察を与えてくれます。例えば、AIが進むと人間の仕事がどうなるか、教育はどう変わるべきか、環境を守りながら経済を発展させるにはどうすればいいか、インターネットでの情報にどう向き合うか、といったことですね。
まとめ
エマニュエル・トット氏の「西洋の敗北」は、世界の政治や経済のことだけじゃなく、今の社会の大きな変化を色々な角度から捉えた本だと言えます。それは、私たちが今まで当然だと思っていた西洋的な考え方を改めて考えてみよう、と促してくれますし、これから世界がどうなっていくのか、色々な可能性を示唆しています。
トット氏の分析は、時には「え、そうなの?」「ちょっとキツイな」と感じるかもしれませんが、それは私たちが今までの考え方にとらわれずに、もっと広い視野で複雑な世界を理解するための手助けをしてくれるんです。この本が投げかけている問題は、専門家だけじゃなくて、私たち一人ひとりが考えるべきことだと思います。
これから世界はどう変わっていくんだろう?私たちはどんな自分たちで、どんな社会を目指していけばいいんだろう?グローバル化と自分たちの国や文化をどうバランスさせる?技術が進む中で社会はどう変わる?。これらの問いにパッと答えは出ませんが、トット氏の本のような多角的な分析は、私たちが深く考えるための良いスタート地点になります。
この本の一番大事なメッセージは、変わりゆく時代に、私たち自身が積極的に関わっていくことが必要だ、ということかもしれません。この大きな変化をただボーっと見ているんじゃなくて、自分たちでより良い未来を作っていく責任が私たちにはあります。それは、自分の仕事や毎日の生活の中で、トット氏が提起した問題について考えたり、何か行動してみたりすることから始まるんじゃないでしょうか。地元の文化を大事にしながら世界のことも知る、環境に優しい行動を心がける、違う考えの人とも話してみる…私たちにできることはきっとたくさんあります。トット氏の本を、単なる「大変だ!」という警告としてだけじゃなく、より良い未来を作るためのヒントとして読んで、日々の生活や行動に活かしていくことこそが、私たちが未来を作る側になる道なんじゃないかな、と思います。
書籍情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2024/11/8)
- 発売日 : 2024/11/8
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 416ページ
- ISBN-10 : 4163919090
- ISBN-13 : 978-4163919096
- 寸法 : 13.2 x 2.7 x 19.1 cm
口コミ

名著・今だから必読
これは必読の書。15か国以上で翻訳されたベストセラーにも関わらず、米英の英語圏では翻訳されていないのは、この本の主張の説得力を高めています。私もマスコミ報道に洗脳されていた自分を感じ愕然としました。ウクライナ侵攻でロシアの金融制裁をSWIFTからの締めだしという方法で行ったとき、私は短期間でロシアは干上がると思いました。しかし、現実は違った。そして今、戦時中にも関わらずロシアから日本に大量の観光客が来ている。報道の何かおかしい。この本は掛け値なしの名著です。地政学、民俗学、コミュニティ論・・今の混迷に多面的な理解が得られます。心から推奨します。

現代国際政治を理解する上での必読書
現代の米国とヨーロッパの現状の危機を余すことなく分析し、非常に今起きている出来事の根底に何があるかを明快に炙り出している。ウクライナ問題とロシアを理解する上での必読書だと思う。また、米国とEUの指導者、政治家が如何に駄目かも納得できる。これらの根底に米国も欧州もプロテスタントの信仰を失い、ニヒリズムに社会が陥っていることを指摘しており、説得力がある。しかし、プロテスタントの復活が望めない現実では、どうすべきであろうか?その回答、希望が何処にあるか、考えさせられる。ニヒリズムの克服を何処に見出すことができるのか、著者は何も答えていない。
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