日本の医療分野におけるIT化は進展しているものの、相互運用性、コスト、セキュリティ、医療従事者の抵抗、患者の理解不足など、多くの課題が依然として存在します。政府は医療IT化を積極的に推進しており、マイナンバーカードの保険証利用をその重要な柱と位置づけています。マイナンバーカードの普及には、制度、技術、国民の意識、医療機関の導入状況など、多角的な課題が存在します。
海外の事例を参考に、日本の医療IT化とマイナンバーカードの普及を促進するための具体的な対策を講じる必要があります。これらの国々では、政府の強力なリーダーシップ、財政支援、標準化の推進、国民への啓発活動などが、医療IT化と国民IDカードの活用を促進しています。
今後の展望としては、政府、医療機関、国民が協力し、これらの課題を克服することで、より効率的で質の高い医療サービスの提供が期待されます。特に、マイナンバーカードの利便性と信頼性を高め、国民の理解と協力を得ることで、その普及を大きく進めることが重要です。将来的には、AIやIoTなどの先進技術の活用も視野に入れ、より効率的で質の高い、患者中心の医療サービスの実現が期待されます。
日本の医療分野におけるIT化の現状分析
日本の医療分野におけるIT化は、近年注目を集めており、デジタルヘルス市場は2024年から2029年にかけて年平均成長率8.82%で成長し、2029年には126億5000万ドルに達すると予測されています。また、AIヘルスケア市場も2024年から2030年にかけて年平均成長率42.4%で成長し、2030年には108億9000万ドルに達する見込みであり、ソフトウェアソリューションが2023年の最大の収益源となっています。これらの数値は、日本の医療分野におけるデジタル化への関心と投資が高まっていることを示唆しています。
しかし、経済協力開発機構(OECD)諸国と比較すると、日本の医療分野のデジタル変革は遅れているとの指摘があります。特にプライマリケアにおける電子カルテ(EMR)の導入率は2021年時点で42%であり、OECD諸国の平均93%を大きく下回っています。この現状は、今後の発展の余地が大きい一方で、早急に解決すべき課題が存在することを示唆しています。
病院における電子カルテの導入状況を見ると、2017年には34.4%の導入率でした。その後、導入率は増加傾向にあり、2018年4月時点では38.3%、2019年9月から10月にかけての調査では63%の病院がEMRを使用していると報告されています。2021年には、COVID-19患者を治療した病院の73.3%がEMRを利用していました。病院規模別に見ると、400床以上の大規模病院では2017年時点で76.3%がEMRを導入しており、病院規模が大きいほどEMR導入率が高い傾向が見られます。日本のEHR市場規模は2022年に22億6000万ドルと評価され、2022年から2030年にかけて年平均成長率4%で拡大し、2030年には30億9000万ドルに達すると予測されています。これらのデータは、病院における電子カルテの導入が進んでおり、市場も成長していることを示しています。
遠隔医療に関しては、2024年の調査によると、オンライン診療の経験がある患者や健康な人はわずか5.29%に過ぎません。しかし、2021年には遠隔医療の利用件数は約5365万件と推定され、総医療件数の約4.1%を占めています。政府は「日本ビジョン:ヘルスケア2035」において遠隔医療の普及を推進しており、特にCOVID-19パンデミック中にオンライン診療の規制緩和と償還が導入されました。政府の支援や関心の高まりにもかかわらず、遠隔医療の利用はまだ限定的であり、普及には課題が多いと考えられます。
医療機器へのAI導入はまだ初期段階にあります。2023年3月時点で、日本の医療機関の約80%がAI医療機器を導入していません。その主な理由として、費用対効果への懸念が挙げられています。しかし、政府は医療従事者の不足や医療費の高騰に対処するため、今後数年以内に10のAIベースの病院を設立する計画を進めています。製薬会社や研究機関では、AIが創薬から診断まで、さまざまな医療段階で積極的に活用され始めています。例えば、AIシステムは医療画像を分析し、人間の目では見落としがちな疾患マーカーを検出するのに役立っています。AI医療機器の導入はまだ始まったばかりですが、政府の取り組みや特定分野での応用事例の増加は、今後の普及拡大を示唆しています。
地域医療連携システムに関しては、政府は医療と在宅介護分野間の情報共有を通じて地域医療連携が拡大することを期待しています。しかし、保険請求データの集計結果によると、他の医療機関への患者紹介における電子データ交換の割合はわずか0.4%に過ぎません。この事実は、政府がITを活用した地域医療連携を推進しているにもかかわらず、医療機関間の実際のデータ交換は非常に限定的であることを示しています。
医療分野におけるIT化が進まない要因
日本の医療分野におけるIT化の進展を妨げる要因は多岐にわたります。まず、技術的な課題として、異なる電子カルテシステム間の相互運用性の低さが挙げられます。多くの病院が異なるベンダーのシステムを使用しており、標準化が十分に進んでいません。オンライン診療システムと既存の電子カルテシステムとの連携が困難であることも課題です。さらに、電子カルテを外部ネットワークに接続することに対するサイバーセキュリティや情報漏洩への懸念も大きな障壁となっています 4。AI導入においても、日本のデータガバナンス法に準拠する必要があるため、患者プライバシーの確保が課題となり、導入の遅れにつながることがあります。
次に、コストの問題があります。電子カルテシステムの導入と維持にかかる初期費用とランニングコストが高いことが、特に中小規模の病院や診療所にとって大きな負担となっています。2007年の調査では、82%の病院がEMR導入の最大の理由として「コストが高い」と回答しています。AI医療機器についても、費用対効果への懸念が導入の躊躇につながっています。開業医は、電子カルテシステム導入の主な障壁として、初期費用と継続的なメンテナンス費用が高いことを挙げる傾向があります。
セキュリティとプライバシーに関する懸念も根強く存在します。医療データは非常に機密性が高く、その利用には厳格な規制があります。AIを導入する機関は、患者プライバシーを最優先事項とし、AIモデルとシステムが日本のデータガバナンス法を遵守することを保証する必要があり、これがAI導入の遅延につながることがあります。電子カルテの外部接続においては、情報漏洩が最大の懸念事項です。マイナンバーカードのようなシステムに関連する個人情報やプライバシー漏洩に対する国民の不安も存在します。マイナンバーカードの普及が遅れている大きな理由の一つに、個人データの安全性とセキュリティに対する国民の懸念があります。
医療従事者の抵抗もIT化が進まない要因の一つです。特に高齢の医師を中心に、医療従事者のデジタルリテラシーの低さが電子カルテ導入の遅れにつながっています。日本医師会(JMA)は、遠隔診療が患者に正確な診断を提供できないのではないかと懸念しています。オンライン診療が事務手続きの増加につながると感じている医療従事者もいます。新しいITシステムの導入に対する医療従事者の抵抗感の高さは、新しいアプリケーション関連の懸念に対処するためのトレーニングや専門知識の不足が原因である可能性があります。
患者の理解不足もIT化の進展を妨げる要因です。オンライン診療に関する認識不足や教育不足が、その普及を妨げる要因として頻繁に挙げられています。日本の高齢者は最新技術の利用に消極的な傾向があります。患者がオンライン診療のアプリケーションをダウンロードしたり、通信環境を設定したりすることの難しさも課題となっています。
医療IT化推進に向けた国の取り組み
日本政府は、医療分野におけるIT化を積極的に推進しています。電子カルテの普及と相互運用性を高め、医療のデジタル化を加速するために様々な政策を打ち出しています。2022年には、「医療デジタル変革(DX)推進計画」が導入され、クラウドベースの電子カルテの利用拡大、AIを活用した患者ケア、データポータビリティとセキュリティの向上を促進する政策が展開されています。政府は、全国的な医療情報プラットフォームの構築と電子カルテ情報の標準化を目指しています。
経済的支援と規制緩和も積極的に行われています。厚生労働省は、医療情報の全国的な共有を支援するため、規制障壁を緩和し、補助金を提供しています。2020年以降、中小規模の医療機関が電子カルテの導入アプローチを標準化するための資金が政府から提供されています。2024年度には、デジタルヘルス革新の推進のために約4億米ドル(617億円)が厚生労働省によって割り当てられました。2014年の薬事法改正以来、政府はデジタルセラピューティクスによる医療システムの高度化を迅速に進めています 。特にCOVID-19パンデミック中には、遠隔医療に関する規制が一時的に緩和され、オンライン診療に対する償還も認められました。
医療情報プラットフォームの構築も重要な取り組みの一つです。政府は、データ共有と活用を促進するための全国的な医療情報プラットフォームの創設を目指しています。これには、電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスの開発が含まれており、段階的な導入が計画されています。このプラットフォームを通じて、医療機関、地方自治体、介護事業者、研究者、そして国民が連携することを目指しています。
医療DX推進計画も策定されています。「医療DX令和ビジョン2030」では、医療分野におけるデジタル変革の長期的な目標が示されています。政府は、「医療DX令和ビジョン2030の実現に向けた工程表」も発行し、基本的な概念と具体的な対策を明確にしています。この計画には、情報共有インフラの開発、共有可能な医療情報の拡大、電子カルテの標準化などが含まれています。
マイナンバーカードの保険証利用促進も政府の重要な政策の一つです。政府は、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を積極的に推進しています。2024年12月2日からは、現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナンバーカードを基本とするシステムに移行します。政府は、マイナンバーカードを保険資格確認の主要な手段とし、患者の同意を得て個人医療情報へのアクセスを容易にすることを目指しています。2024年秋には、現行の健康保険証の保険としての効力を終了させる計画です。
医療分野におけるマイナンバーカード普及の現状と課題
マイナンバーカードの普及率は、2021年9月の38%から2024年4月には78.8%に増加しています。しかし、健康保険証としての利用率はこれよりも低い状況です 。2022年6月1日時点で、マイナンバーカードを取得した住民は約44.7%でした 。また、2022年5月15日時点で、マイナンバーカードを健康保険証として利用するためのシステムを導入している医療機関は20%未満であり、カードリーダーシステムの導入を申請している医療機関は約58%でした 。これらの数字は、マイナンバーカードの普及は進んでいるものの、医療分野での利用はまだ途上であることを示しています。
制度上の問題点として、マイナンバー制度が一般の人々にとって複雑で理解しにくいという点が挙げられます 。マイナンバーカードやマイナポータルのデザインや使いやすさにも課題が指摘されています 。マイナンバーカードは5年ごとに更新が必要であり、更新を忘れると保険診療を受けられなくなる可能性があります 。保険資格情報のマイナンバーカードシステムへの反映に時間がかかる場合もあります 。
技術的な課題としては、多くの医療機関がマイナンバーカードリーダーの技術的な問題点を報告しています。システム障害や停電時の医療提供体制への懸念も存在します。マイナンバーカードシステムと既存の医療システムとのシームレスな連携も課題となっています。政府のマイナンバーカードの医療分野における正確な登録方法に対する過信も批判されています。
国民の意識や懸念も普及の大きな課題です。政府のデータ漏洩事件を受けて、マイナンバー制度への国民の信頼は低下しています。多くの人々は、医療履歴を含む個人情報がマイナンバー制度に紐付けられることに、政府への不信感やセキュリティ上の懸念から抵抗を感じています。当初は任意であったマイナンバーカードの取得が、健康保険証と一体化されることで事実上義務化されることに対する反発も存在します。多くの人々は、マイナンバーカードにどのような情報が含まれているかを理解しておらず、詳細な個人データがカードに記録されていると考えています。代理申請の問題点や、本人の確認や意思確認が不十分なまま利用されることへの懸念もあります。
医療機関側の導入状況も普及を左右する要因です。多くの医療機関、特に小規模な診療所や高齢の医師は、顔認証システムの導入やコンピュータシステムの刷新に消極的です。その理由として、優先順位が低いことや経済的な制約が挙げられます。代理申請の不正利用に対する懸念も医療機関側に存在します 。マイナンバーカードシステムの導入が医療現場に負担をかけるのではないかという懸念もあります。
海外における医療IT化の状況と国民IDカードの活用事例
米国では、2021年時点で外来診療を行う医師の88%が電子カルテを導入しており、そのうち78%が認証されたEHRシステムを使用しています。病院におけるEHRの導入率も非常に高く、2021年には96%に達しています。遠隔医療の導入も急速に進んでおり、2021年には医師の80.5%が遠隔医療を利用しています。しかし、米国には医療分野で使用される国民IDカードは存在しません。退役軍人医療制度(VA)に登録された退役軍人は、退役軍人健康識別カード(VHIC)を使用しますが、一般的な医療保険情報は保険会社が発行するIDカードに記録されています。米国は、政府のインセンティブと市場の力によってEHRと遠隔医療の普及を大きく進めていますが、医療アクセスには国民IDカードではなく、保険ベースの識別を利用しています。
ヨーロッパでは、EHRの導入率は一般的に高く、オランダや英国ではプライマリケアにおける導入率が約99%に達しています。遠隔医療の導入も進んでおり、多くの国が国家的な遠隔医療戦略を持っています。多くのヨーロッパ諸国では、EU/EEA加盟国やスイスに一時的に滞在する際に、欧州健康保険カード(EHIC)を利用して公的医療を受けることができます。エストニアのように、国民デジタルIDシステムを医療データへのアクセスに利用している国もあります。ヨーロッパは、EHRの高い導入率と遠隔医療の利用拡大を通じて、デジタルヘルスへの強い取り組みを示しています。EHICは国境を越えた医療アクセスを容易にし、エストニアの例は国民デジタルIDの医療分野での活用可能性を示唆しています。
韓国では、2015年時点で病院の58.1%がEHRを導入しており、三次病院と総合病院では導入率が高くなっています。一部の報告では90%以上の導入率が示唆されており、その後さらに導入が進んでいると考えられます。遠隔医療市場も大幅な成長が予測されています。韓国では、保険診療を受ける際に病院で写真付きのIDカードの提示が義務付けられています。また、病院での本人確認に使用できるデジタル住民登録証の導入も進められています。携帯電話事業者が開発したデジタルIDアプリPASSも、病院での本人確認に採用されています。韓国は、EHRの高い導入率と、医療における国民識別の積極的な活用を特徴としており、日本にとって参考となる事例です。写真付きIDカードの義務化やデジタル住民登録証の導入は、医療アクセスと不正防止のための政府の強い推進力を示しています。
日本の医療IT化における課題の特定と解決策の考察
日本の医療IT化における主要な課題として、データ連携と相互運用性の遅れが挙げられます。異なる医療機関やシステム間での患者データのシームレスな交換が遅れており、電子紹介状の普及率の低さや、遠隔医療と電子カルテの連携の難しさなどがその証拠です。異なるベンダーの電子カルテシステムが乱立し、標準化が進んでいないこともこの問題を悪化させています。
費用対効果と導入コストも大きな課題です。電子カルテやAI技術を含むITシステムの導入と維持にかかる費用は依然として高く、特に中小規模の病院や診療所にとっては大きな負担です。新しい技術、特にAI医療機器の費用対効果に対する懸念も、導入の遅れにつながっています。
セキュリティとプライバシーへの根強い懸念もIT化の足かせとなっています。国民や医療従事者の間で、データ漏洩や機密性の高い医療情報の安全性に対する不安が依然として強く、マイナンバーカードのような国民IDシステムへの抵抗感もその表れと言えます。
医療従事者のデジタルリテラシーと抵抗も無視できません。特に高齢の医師を中心に、IT技術への習熟度にばらつきがあり、ワークフローの変化やテクノロジーが患者と医師の関係に与える影響に対する懸念も存在します。
患者側のデジタルヘルスリテラシーとアクセスも課題です。高齢者を中心に、デジタル機器の操作に不慣れな層や、インターネット環境へのアクセスが限られる層が存在し、遠隔医療やオンラインでの健康情報へのアクセスが十分に広がっていません。
マイナンバーカードの利用促進には、制度の複雑さ、技術的な問題、国民の根強い不信感、医療機関側の導入の遅れなど、多角的な課題が絡み合っています。
AI医療機器の導入も、費用対効果への懸念や規制の整備の遅れなどから、慎重な姿勢が見られます。
これらの課題に対する解決策として、まず国家レベルでのデータ標準化と連携基盤の構築が不可欠です。電子カルテをはじめとする医療ITシステムに対して、データ形式や通信プロトコルに関する共通の規格を策定し、異なるシステム間での安全かつ円滑なデータ交換を可能にする必要があります。また、国主導で地域医療連携ネットワークを構築し、情報共有を促進するためのインフラを整備することも重要です。
ITソリューションの導入は段階的に進め、導入による費用対効果を明確に示す必要があります。特に効果が期待できる分野から着手し、導入後の医療費削減効果や患者アウトカムの改善を示すことで、さらなる投資を促し、関係者の信頼を得ることが重要です。
セキュリティ対策の強化と透明性の確保も不可欠です。患者データの保護のために最先端のセキュリティ対策を導入し、その対策内容を国民や医療従事者に対して分かりやすく説明することで、不安を軽減し、信頼感を醸成する必要があります。
医療従事者に対しては、継続的な教育とトレーニングプログラムを提供し、デジタルリテラシーの向上を図るとともに、新しい技術に対する懸念や疑問を解消するためのサポート体制を整備する必要があります。
患者に対しては、デジタルヘルスリテラシー向上のための啓発活動を展開し、使いやすい技術やアクセスしやすい環境を提供することで、デジタルヘルスサービスの利用を促進する必要があります。
マイナンバーカードについては、利便性を向上させ、信頼を回復するための包括的な対策が必要です。システムの簡素化、技術的な問題の解決、セキュリティ対策の強化と情報公開、医療機関との積極的な対話と協力などが求められます。
AI医療機器の導入に向けては、明確な規制ガイドラインを策定し、研究開発へのインセンティブを提供するとともに、安全性と倫理性を確保するための検証体制を整備する必要があります。
医療分野でのマイナンバーカード普及促進に向けた具体的対策
マイナンバーカードの医療分野での普及を促進するためには、利便性の向上、信頼性の確保、医療機関への導入支援、国民への啓発活動、利活用範囲の拡大といった多角的な対策が必要です。
利便性の向上策として、まずマイナポータルのユーザーインターフェースを改善し、あらゆる年齢層やデジタルリテラシーレベルの人が直感的かつ容易に利用できるようにする必要があります。医療機関においては、マイナンバーカードリーダーの機能を強化し、事前に登録していなくてもその場で健康保険証としての利用登録が完了できるようにするなど、登録プロセスを簡略化すべきです。スマートフォンとの連携を強化し、計画されている2025年春のiPhoneへの搭載を早期に実現するとともに、スマートフォンを主要な保険資格確認と健康情報へのアクセス手段として積極的に推進していくべきです。マイナンバーカードを利用しない人に対しては、健康保険資格確認書の存在とその取得方法を広く周知し、容易に取得できるようにする必要があります。
信頼性の確保のためには、マイナンバーカードシステムを支えるITインフラをさらに強化し、システム障害やダウンタイムを最小限に抑える必要があります。また、停電などの緊急時においても医療アクセスが確保されるよう、強固な事業継続計画を策定し、周知徹底すべきです。個人医療情報を保護するための最新のセキュリティ対策を導入し、その対策内容を国民に対して透明性高く情報公開することで、信頼感を醸成する必要があります。過去に発生したデータ連携ミスなどの技術的な問題に対しては、継続的な監視と迅速な対応を行い、システムの正確性と信頼性を維持する必要があります。
医療機関への導入を支援するためには、マイナンバーカードリーダーの導入費用や既存システムとの連携費用に対して、特に中小規模の医療機関に対する財政的インセンティブを拡充する必要があります。医療従事者に対しては、マイナンバーカードシステムの利用方法に関する包括的なトレーニングプログラムを提供し、システム導入によるワークフローへの影響に関する懸念を解消するための技術サポート体制を整備すべきです。マイナンバーカードの導入に成功している医療機関の事例を紹介し、ベストプラクティスを普及させることも有効です。
国民への啓発活動としては、マイナンバーカードを医療分野で利用することの具体的なメリット、例えば、医療履歴へのスムーズなアクセス(同意に基づき)、高額療養費制度の簡便な手続き、確定申告における医療費控除の簡略化などを強調した広報活動を展開する必要があります。プライバシーやセキュリティに関する国民の懸念に対しては、実施されている安全対策や、医療履歴がカードに直接保存されないことなどを明確かつ繰り返し伝える必要があります。高齢者やデジタル機器の操作に不慣れな層を含む、あらゆる国民に情報が届くよう、オンラインプラットフォーム、伝統的なメディア、地域社会の啓発プログラムなど、多様なコミュニケーションチャネルを活用すべきです。
マイナンバーカードの利活用範囲を拡大することも重要です。健康保険証としての利用に加えて、個人健康記録(PHR)へのアクセス、電子処方箋との連携、医療費助成制度の利用など、他の医療サービスへの利用範囲を拡大することを検討すべきです。医療機関での患者登録や予約手続きへの利用も検討に値します。救急医療においては、救急救命士が緊急時に必要な医療情報に迅速にアクセスできるよう、マイナンバーカードシステムの活用を促進すべきです。
各種表
指標 | 2017年 | 2018年4月 | 2019年9-10月 | 2021年 |
病院における電子カルテ導入率(全体) | 34.4% | 38.3% | 63% | 73.3% |
病院における電子カルテ導入率(400床以上) | 76.3% | – | – | – |
プライマリケアにおける電子カルテ導入率(2021年) | – | – | – | 42% |
日本のEHR市場規模(2022年) | 22.6億ドル | – | – | – |
日本のEHR市場規模予測(2030年) | 30.9億ドル | – | – | – |
指標 | 2021年 |
遠隔医療の利用割合(総医療件数に占める割合) | 約4.1% |
遠隔医療の利用件数(推定) | 約5365万件 |
オンライン診療経験のある患者・健康な人の割合(2024年) | 5.29% |
国 | EHR導入率(年) | 医療環境 |
米国 | 88% (2021) | 外来診療医 |
米国 | 96% (2021) | 病院 |
オランダ | 約99% | プライマリケア |
英国 | 約99% | プライマリケア |
韓国 | 58.1% (2015) | 病院 |
韓国 | 90%以上 (推定) | 医療機関 |
国 | 国民IDカードの医療利用 | 主な特徴/利用状況 |
米国 | いいえ | 退役軍人向けVHICあり、保険証が一般的 |
エストニア | はい | 国民デジタルIDで医療データにアクセス可能 |
韓国 | はい | 写真付きIDカード提示義務、デジタル住民登録証導入、PASSアプリ利用 |
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