飲食店でアルコールを提供する場合、「飲食店営業許可」が必須です。特に深夜(午前0時以降)も営業するお店は「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」、客に接待をする場合は「風俗営業許可」が必要です。ただし、深夜営業と接待は法律上両立できません。開業前にどちらの営業スタイルにするか決め、それぞれの届け出・許可申請を準備しましょう。無許可営業には厳しい罰則があります。
飲食店営業許可
これはアルコール提供の有無にかかわらず、食品を調理し提供するすべての飲食店に必須の許可です。管轄の保健所に申請します。
- 申請先: 営業所の所在地を管轄する保健所
- 申請タイミング:開業前。営業開始日の10日前までに提出が望ましい
- 必要な書類の例:
- 営業許可申請書
- 営業施設の平面図、設備の配置図
- 食品衛生責任者の資格を証明する書類
- 申請者の身分証明書
- 水質検査成績書(水道水以外を使用する場合)
- 費用:
- 申請手数料:約15,000円~20,000円
- 食品衛生責任者講習会受講料:約10,000円
- 注意点:
- 申請前に施設の構造や設備が基準を満たしているか、保健所の担当者と事前に相談することをお勧めします。
- 食品衛生責任者は、調理師や栄養士などの資格を持つ人がなれるほか、各自治体の食品衛生責任者講習会を受講することで取得できます。
深夜酒類提供飲食店営業開始届出
午前0時から午前6時の間に、バーや居酒屋などの主として酒類を提供し、客に遊興をさせないお店が営業する場合に必要となります。
- 申請先: 営業所の所在地を管轄する警察署
- 申請タイミング:開業予定日の10日前までに管轄警察署へ提出
- 対象店舗例:バー、居酒屋、ダイニングバーなど、酒類をメインに提供する店。主食(米飯・麺類等)を「営業の常態」として提供する店(例:牛丼屋、ラーメン店)は不要
- 必要な書類の例:
- 深夜酒類提供飲食店営業開始届出書
- 営業所の平面図、求積図
- 住民票の写し
- 建物の使用承諾書または賃貸借契約書の写し
- お店の照明・音響設備の配置図
- 費用:
- 届出自体に手数料はかかりませんが、必要書類の準備費用や、行政書士に代行を依頼する場合はその費用(数万円~10万円程度)がかかります。
- 注意点:
- この届出の対象は「主として酒類を提供し、飲食をさせる営業で、深夜に営むもの」です。食事を主として提供し、深夜に酒類も提供する場合は原則として届出は不要です。
- お店の用途地域(商業地域、近隣商業地域など)によっては、深夜営業が制限される場合があります。事前に確認が必要です。
接待サービスを伴う場合:風俗営業許可(1号営業)
- 対象行為:客との会話・談笑、カラオケの盛り上げ、個別のお酌など「接待」行為。
- 注意点:
- 風俗営業許可を取得すると深夜営業(0時以降)が禁止されます。
- 無許可で接待を行うと、2025年改正風営法により営業停止や罰金(最大3億円) の対象に。
なぜ両方を同時に取得できないのか?
これは、それぞれの許可・届出が法律で定められた営業形態と時間に根本的な違いがあるためです。
- 風俗営業許可(風営法第2条第1項第1号営業):
- 主な特徴: 「接待」を伴う営業。
- 接待とは: 客の隣に座って談笑したり、お酌をしたり、カラオケでデュエットをしたりする行為を指します。
- 営業時間: 原則として深夜0時(地域によっては午前1時)以降の営業は禁止されています。
- 目的: 風俗環境の保全。
- 主な特徴: 「接待」を伴う営業。
- 深夜酒類提供飲食店営業開始届出:
- 主な特徴: 接待を伴わない営業。
- 営業時間: 深夜0時以降もアルコールを提供して営業することができます。
- 目的: 未成年者への配慮や騒音問題など、深夜における社会的な秩序維持。
このように、「接待を伴うかどうか」と「深夜営業が可能かどうか」という2つの点が両立しないため、どちらかを選択する必要があるのです。
スナック開業の2つの選択肢
💡 ポイント:スナック経営では「深夜営業」と「接待」の両立が不可能なため、営業形態の再検討が必要です。
スナックのコンセプトや営業形態に合わせて、どちらの許可・届出を取得するか決定します。
選択肢1:深夜酒類提供飲食店営業開始届出で開業する
この選択肢は、深夜0時以降も営業したい場合に適しています。
- 営業スタイル: ママや従業員はカウンター越しに接客を行い、客の隣に座る、お酌をするなどの「接待行為」は一切行いません。
- 営業時間: 深夜0時以降も営業可能です。
- 手続き:
- 飲食店営業許可を保健所で取得する。
- 営業開始の10日前までに、深夜酒類提供飲食店営業開始届出を警察署に提出する。
- メリット: 深夜まで営業できるため、閉店時間を気にせず集客できる。
- デメリット: 「接待」ができないため、顧客との深い関係性を築く営業スタイルには制約があります。
選択肢2:風俗営業許可で開業する
この選択肢は、「接待」を伴う営業をしたい場合に適しています。
- 営業スタイル: ママや従業員が客の隣に座って談笑したり、カラオケを歌ったりといった「接待」ができます。
- 営業時間: 深夜0時以降は営業できません。
- 手続き:
- 飲食店営業許可を保健所で取得する。
- 風俗営業許可申請を警察署に行う。
- メリット: 接待を通じて顧客満足度を高め、リピーターを獲得しやすい。
- デメリット: 深夜0時以降の営業ができないため、営業時間に制限があります。また、申請から許可まで約55日かかるなど、手続きが複雑で要件も厳格です。
2025年改正風営法の影響
- 禁止行為の明確化:
- 客の恋愛感情を利用した飲食の要求(例:「来なければクビになる」と迫る)。
- 注文していない飲食物の提供。
- 違反時は営業停止または拘禁刑6ヶ月/罰金100万円。
- 罰則強化:無許可営業の罰金が個人で最大1,000万円、法人で3億円に引き上げ。
酒類販売業免許(お持ち帰り用のお酒を販売する場合)
お店で提供するだけでなく、ボトルキープやお店の外へのお持ち帰り用に瓶ビールや日本酒などを販売する場合に必要となります。
- 申請先: 営業所の所在地を管轄する税務署
- 必要な書類の例:
- 酒類販売業免許申請書
- 定款、登記事項証明書(法人の場合)
- 店舗の平面図
- 資金証明書
- 納税証明書
- 費用:
- 登録免許税:3万円
- 行政書士に代行を依頼する場合は別途費用がかかります。
- 注意点:
- 申請から免許が交付されるまでに通常2ヶ月ほどかかります。
- 税務署によって必要書類が異なる場合があるため、事前に確認が必要です。
よくあるグレーゾーンと対策
- 軽い雑談やお酌:
- 常連客への個別対応が「接待」とみなされる可能性あり。従業員マニュアルで接客基準を統一。
- BGMやイベント開催:
- ダンスやライブ演奏を行う場合は「特定遊興飲食店」の許可が必要。
無許可営業のリスク
- 飲食店無許可:2年以下の懲役または200万円以下の罰金(食品衛生法)11。
- 風俗営業無許可:5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(2025年改正後)89。
- 両方無許可:上記罰則が併科され、法人は最大3億円の罰金8。
許可のまとめ
届出/資格名 | 概要 | 申請先 | 必要なタイミング |
飲食店営業許可 | 食品提供を行う全ての飲食店に必須 | 保健所 | 開業前 |
深夜酒類提供飲食店営業開始届出 | 深夜(午前0時~午前6時)にアルコールを主として提供する場合 | 警察署 | 開業前(営業開始10日前まで) |
酒類販売業免許 | お店でのお持ち帰り用に酒類を販売する場合 | 税務署 | 販売開始前(申請から交付まで約2ヶ月) |
防火管理者 | 収容人数30人以上の場合に必要(義務) | 消防署 | 開業前 |
食品衛生責任者 | 1店舗に1人配置必須 | 各自治体の講習会など | 開業前 |
これらの届出や資格は、それぞれ準備に時間がかかります。開業スケジュールを立てる際は、これらの手続きにかかる期間を考慮し、余裕をもって準備を進めることが重要です。
営業スタイル別まとめ
営業形態 | 必要な許可/届出 | 主な制約・注意点 |
---|---|---|
アルコール提供(一般時間帯) | 飲食店営業許可 | 保健所への申請必須 |
深夜営業(0時~6時) | 深夜酒類提供飲食店届出 | 主食メイン店は不要、警察署へ届出 |
接待サービスあり | 風俗営業許可(1号営業) | 取得すると深夜営業不可、違反で罰則強化 |
深夜+接待 | 不可(両立不能) | スナックなどは深夜0時閉店が無難 |
自治体ごとの追加規制を確認する場合は、管轄の保健所や警察署へ事前相談が必要になります。
参考:キャバクラとガールバー
ガールズバーとキャバクラの営業許可は、主に「接待行為」の有無によって大きく異なります。両者とも、まず「飲食店営業許可」が必要です。その上で、以下のどちらかの許可または届出が必要となります。
キャバクラ | ガールズバー | |
必要な手続き | 風俗営業許可1号 | 深夜酒類提供飲食店営業届出 |
接待行為 | 可能 | 不可能 |
営業時間 | 原則として深夜0時まで | 深夜以降も営業可能 |
主な接客形態 | 客の隣に座ってサービスを提供 | カウンター越しに接客 |
ガールズバーとして営業している店でも、実態として「接待行為」を行っている場合は、無許可営業として摘発の対象となります。風俗営業許可と深夜酒類提供飲食店営業届出を同時に取得することはできないため、店のコンセプトに合わせてどちらか一方を選択する必要があります。
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